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えっ、今日から私も魔法使い!?【参照4000突破感謝】 ( No.273 )
日時: 2016/04/06 12:37
名前: 雪兎 (ID: VIeeob9j)

第百三話 <波乱のお見合い編>

「か、帰りのことまで考えてなかったね……」
 エリオット君が引きつった笑みを浮かべる。その隣では、リリアンがバタバタと足をばたつかせていた。
「あたしやだよぉ〜! どの道通ってきたかもわかんないし、もう立ち上がりたくなぁーい! 」
「それもそうだね……はあ、一瞬で出口にワープできればどんなに楽か——」

「できますよ? 」

「「えっ? 」」

 突如何もない空間から発せられた声に、私たちは素っ頓狂な声を上げた。
 驚いている私たちの目の前に魔法陣が浮かんだかと思うと、そこから一人の女の子が姿を現した。

 セミロングの黒髪に、どこかの学校の制服を身に着けており、雪の結晶のついた薄桃色の綺麗な杖を手にしていた。
「初めまして、だね。私の名前はハスキス・クローバー。理事長のお使いで来ました」
「理事長の?……ていうか、今、空から……」
「ふふっ、私杖があれば基本何でもアリなんで。それよりほら、早く移動しましょう。そちらの方も、随分苦しそうだし」
 ハスキスちゃんが、杖でジークを指す。よく見てみれば、顔つきは余裕を装っているものの額には脂汗が浮かび、ひどく辛そうだった。
「大変……ハスキスちゃん、あなたなら出来るんでしょ。早くっ」
「分かりました。では皆さん、私から離れないでくださいね」
 皆が集まったのを確認すると、何やら呪文を唱え始めた。

「風よ、我らを運びたまえ。——ポイント・ワープ」

 すると、私たちの周りを風が渦巻きだした。「ひっ」と悲鳴を上げてジークにすがりついたエリオット君を、ジークが舌打ちしながら引きはがす。
 私たちの身体は一瞬宙に浮きあがると、そのまま視界がホワイトアウトした——。


               ☆


「——あれ?ここは——」
 気が付くと、私たちは地下迷宮の前に立っていた。帰ってこれた、と安心できたのも束の間、目の前でリュネがふらりとよろめいた。
「リュネット! 」
 私は駆け寄ってリュネの小さな体を支える。
「……大丈夫。少し、疲れただけ」
「早く戻ろう、フィルっち。みんな待ってるよっ」
「うん! ——ハスキスちゃん、ありがとう。あなたがいなかったら、私たち……」
 ハスキスちゃんはふわりと微笑んで言った。
「いえいえ、お役に立ててよかった。——また会いましょうね」

 それだけ言うと、ハスキスちゃんは魔法陣の中に消えていった。不思議な子だったな——理事長とは、どういう関係なんだろ。

(——はっ! こんなことしてる場合じゃなかった。早く戻らないと)

 私たちはみんなの力で手に入れたイエローダイヤモンドを握り締め、コーカー夫妻が待つ家へと帰ったのであった。


               ☆


 それからのことを少し話すね。
 コーカー夫妻はイエローダイヤモンドと帰ってきた私たちを見て、涙を流して喜んでくれた。それからお礼にと言って、見たこともないような金額を手渡そうとしてくれたけど、私たちは受け取らなかった。なぜって、私たちが友達のために勝手にやったことだもんね。
 コーカー家には莫大な資産が入ることになり、お見合いの必要もなくなったそうだ。
 
 ——そして再び学校に戻ってきた私たちは、いつも通り授業を受けている。

「あれ?ジーク、あんたもう骨折治ったわけ!? 」
「あーん? 当り前だろうがあんな怪我。ジーク様はお前達とは違うんだよ〜」
「いやいやいや、そんなの常人には無理だから普通……」
「わははっ、ジークってばもしかしてサイボーグ?かっこい〜☆」

「……あ、の」
 私たちがたわいもない話をしていると、突然リュネがひょっこりと顔を出した。
「わっ、びっくりした! 」
「あの……今回は本当にあり、がとう。その、迷惑をかけちゃったけど——」
「なーに言ってんのさ、リュネ」
 私はもじもじとうつむくリュネの肩にポンと手をのせた。

「私たちみんな、友達として当然のことをしたまでだよ? ——改めてこれからもよろしく、リュネ」

 リュネはみんなの顔を見回すと、微笑んで小さく頷いた。

「——うん」


               ☆


(——?皆さん、随分と打ち解けているような。何かあったのでしょうか)
 カイルは先生に頼まれた荷物を運びながら、楽しそうに笑う五人の姿を見つめた。その中には、ジークとエリオットの姿もある。

「……どうやら、出遅れてしまったようですね」

 少し残念そうにつぶやくと、荷物を抱え直し階段を下りていった。


                    <波乱のお見合い編、了>

                  次回、第百四話。お楽しみに☆