コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- えっ、今日から私も魔法使い!?【参照4000突破感謝】 ( No.275 )
- 日時: 2016/05/20 22:31
- 名前: 雪兎 (ID: VIeeob9j)
第百四話
少年は切り株に腰かけ、「ねえ」と前を歩く少女を呼び止めた。
「なによ、もうつかれたの? 」
少女はぷすっとむくれて引き返し、少年の隣に屈みこむ。
「ぼくの母さんね、もうすぐしんじゃうかもしれないんだって」
「え、どういうこと!? 」
少女は驚いたように、少年の顔を覗き込むように尋ねた。少年は顔を赤くして答える。
「あっあのね、びょうきがなおらなくて……でもお金がないから、おいしゃさんにみせてあげられないの。お父さんがいたらなあ」
そうなんだ、と少女は悲しそうにつぶやいた。だがしばらくして、あっ!と叫んで立ち上がる。
「そういえば、この森のおくにあるたきのみずは、どんなびょうきもなおしてくれるんだよって、おばさんたちが言ってたような……」
「ほんとうに!? 」
少年はパアッと顔を輝かせると、森の奥に向かって駆け出した。
「あっ!でもたきはあぶないから近づいちゃだめよ! ねえ、待ってってばっ」
少女は仕方なく、少年のあとを追うのだった。
ザアザアと、立派な滝がまるで壁のように流れ落ちている。
「ほんとうに、あったのね……」
「フィルちゃん、ぼく行ってくるよ!だいじょうぶ、ちゃんとビンももってきたから」
「だめだよジーク、そういうもんだいじゃないの!もし落ちちゃったら……」
だが、母親を助けたい一心の少年には、その言葉は届かなかった。少年は滝につながる川の近くに駆け寄ると、水に手を伸ばした——が。
「あぶないっ!! 」
少年がバランスを崩し、その体がぐらりと傾く。少女は顔を青くして、彼のもとに全速力で駆けた。そして——
「あっ……」
慌てて手を伸ばすが、少女が着いた時にはもう、自分の視界に少年の姿はなかった。
「ううっ……」
ジワリと涙が浮かんでくる。ぎゅっと手を握り締め、声を上げて泣く。無力な自分には、何もできないと分かったからだ。
「わたしが、あんなこと言ったから……!」
だれか。
「誰でもいいから……私がなんでもするから、ジークを、ジークをたすけてっ!! 」
その時。
『その言葉に嘘はないな?小娘』
荘厳な声があたりに響いた。眩しすぎる光に少女が顔を上げると、そこには一体の巨大な龍が浮かんでいた。
『やれやれ。暇だからとこんな西洋の田舎町まで来てみたが、とんだ拾い物をしたな』
少女は、龍と一緒に光に包まれているものに目が釘付けになった。「あなたが、ジークを助けてくれたのね! 」
『おお、そうじゃ。ついでにこの小僧の母親も治してやろう。だが、ただというわけには行かぬ。そうだな、では——』
——このあと、少年は母の再婚相手の元へと引っ越すが、学園の同級生として少女と再開することになるのだが、それはまた別のお話。
「!!」
私は、夜中に飛び起きた。何だったんだろ、さっきの夢。なんか、大事なところで目が覚めちゃったような……。
ま、いいか。明日も早いし、もう寝よう——。
☆
「……で、どうだったのだ」
「? 何のことです」
私立セント・ブラックウェル学園の最上階、理事長室には、学園理事長とハスキス・クローバーの姿があった。
「奴ら——フィリア・ヴァレンタインと愉快な仲間たちだよ。なかなか面白い奴らだっただろう」
「そうですね。お友達になりたいなぁ」
ハスキスはまるで夢見る乙女のように、窓の外を眺めた。そこでは体育の授業中のフィリアたちが、キャーキャー言いながらボールを蹴りあっていた。——いや、キャーキャー言っているのは、ジーク・オースティンとカイル・マクディーンの攻防を見守る女子たちのようだった。
ハスキスがふいに口を開く。「でも、」
「ん?何か気になることでもあったのか」
彼女は少し表情を曇らせながら、それに答えたのだった。
「……ジークくんってなんだか、なにか大きなものを、背負っているような気がするんです」
理事長はそうか、と答えたきり、それ以上何も言わなかった。
次回、第百五話。お楽しみに☆