コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: えっ、今日から私も魔法使い!?【募集あり】 ( No.68 )
- 日時: 2015/10/11 09:39
- 名前: 雪兎 (ID: VIeeob9j)
第九話
いよいよ、対抗戦が明日に迫った朝のこと。
私は、気分を晴らそうと散歩していた。
「ふーん、ふふーん♪良い天気だねえー。…はあ、でも明日のことを考えると緊張するなあ。」
そんなことを考えながら、角を曲がると。
「わっ!」
「う、わ…。」
なに?人にぶつかった?
見ると、灰色の髪の男の子が尻もちをついていた。
そして、足元にはウサギのぬいぐるみが。
「ぴょんちゃん…」
「あっ、ごめんなさい!」
私は慌ててぬいぐるみを拾い上げると、土を払って男の子に手渡した。
「本当にごめんね。けがはない?」
私が尋ねると、男の子は小さくうなずいた。…この子、見た目からして初等部かなあ。
私はその子に、少し興味がわいた。なんか話しかけてみよう。
「良かった。…ねえ、そのぬいぐるみ、かわいいね。お気に入りなの?」
その話題を振ると、男の子の顔がパアッと明るくなった。
「うん…!」
ま、まぶしい!笑顔がまぶしい…!
男の子ははっとすると、照れたようにうつむいた。
「ルカ……」
「え?」
「僕の、名前。」
「あ、ルカ君って言うんだ。よろしく!」
そうして手を差し出すと、ルカは頬を赤らめながらも手を握り返してくれた。
ふいに、ルカがつぶやいた。
「…僕、もう行かなきゃ。」
「あ、もしかして用事?なら、早く行かなきゃ。」
ルカはうん、とうなずくと、優しく微笑んで言った。
「君は優しいから、スキ」
「っ…!…そう、ありがとう。じゃあ、またね。」
男の子が走り去ったあと、私は顔が熱くなるのを感じていた。
うわ、なんでだろ。あの子超美形だったからなあ。
着てるものも白のブラウスに黒のギンガムチェックのかぼちゃパンツだったし…どこの名門のおぼっちゃんだろ?…あれ?
「あ、リュネットちゃん。」
思いがけないところで、思いがけない人に会うもんだ。
リュネットちゃんは子猫を撫でていた。とても優しい顔で。
でも話しかけると、途端に警戒するような顔になってしまった。美人なのにもったいない…。
「…何か用。」
「いや、別に。見かけたから話しかけただけ。」
そういうとリュネットちゃんはあからさまに嫌そうな顔になり、ハアとため息をついた。…私、なんかしちゃったっけ?
「ネコ、かわいいね。好きなの?」
「動物は、裏切らない…から。」
そう言ったときのリュネットちゃんの表情。
深く、憂いに満ちた瞳。伏せたまつげは長く、美しかったけど、それがなんだか逆に悲しさを際立たせていた。
「もしかして、なにかあったのかな。良かったら、私に話してみてくれない?」
するとリュネットは、キッとこちらを睨んだ。
「…何なの、さっきからッ!…関係ないでしょ、何で、ボクに構うの。」
あちゃー、ちょっと余計なことしちゃったかな。…でも。
私はリュネットちゃんの隣にかがみこんだ。
「ねえ、リュネットちゃん。あなたに、何があったのかは知らない。けどね、一人で抱え込むほど、不安なものはないよ。人は不安定だから、いつ壊れてもおかしくはないの。…私も、すごくつらいことがあったけど、周りの人のおかげで立ち上がれたの。…だから、ね?私にも、あなたの力にならせて?」
リュネットちゃんは、しばらくうつむいて黙りこくっていたけど、そのうちぽつりぽつりと話してくれた。
リュネットちゃんのお家は、有名な貴族の家らしいのだ。
でも最近事業が立ち行かなくなって、両親はケンカばかり。そのうちたった一人の弟が重い病気にかかり、余命はもって半年と宣告されたのだという。
そして長年飼っていたペットの飼い猫も死亡。心を許せる相手がいなくなったリュネットちゃんは、心を閉ざし、家を飛び出してきてしまった。
最初は友達がほしいと思っていたが、近づいてくるのはその美貌に惹かれた男たちばかりだった。
つまり、周りの環境が孤独を作ったってことか…。
つらかったよね、大変だったよね。
「ねえ、私とお友達になってくれる?…それでいっぱいいっぱい、いろんなことを話そう。わたしにできることなら、協力するから。ね?」
「……。」
リュネットちゃんは、黙ったままだった。でも、私の想いはきっとつたわっただろう。
「あと、リュネって呼んでもいいかな?…その、長いし。」
「勝手に…し、て。」
「うん、わかった。」
それで、十分だ。
「あ、あと明日、対抗戦だから。絶対、顔出してね、約束。」
私は返事を待たずにその場を立ち去った。大丈夫、彼女なら。
☆
フィリアが立ち去ったあと。
リュネットは一人、つぶやいていた。
「まだ…話してない。全部…」
☆
「いよいよ明日、だな。」
黒髪の少年、ライムがつぶやくように言った。
「そうねェ…まあでも、緊張感のかけらもないけど。」
紺色の髪の少女、フレアが、髪の一房をくるくると指に巻きつけながら言った。
それに対して、赤毛の少女、ユズカ。
「ええー、緊張するよおー。フレアは、これからすることの重大さがわかってないのー?」
「分かってるわよ。…だからこそ、ゾクゾクするんじゃない。」
そんな二人のやり取りに、ライムははあ、とため息をつく。
「お前らなあ。…ん?」
「どうし……あら。」
「あれってー、同じクラスの?」
三人の視線の先には、一人の少女がいた。金髪に緑色の瞳。そう、フィリア・ヴァレンタインだった。
なにかとてもうれしそうな表情をしている。
「ねえ、あの子ってさー。」
「…ああ。やっぱり、お前らも気づいてたか。」
「ええ、もちろん。あんなおもしろそうなもの、気づかないはずないじゃない。」
ニヤリと笑って、言った。
「どうしてあの子からは、二人の人間の匂いが…するのかしらねぇ?」
次回、いよいよ対抗戦&新キャラ登場。お楽しみに。