コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

2章 2話 №8 ( No.64 )
日時: 2015/02/07 21:19
名前: 占部 流句 ◆PCElJfhlwQ (ID: zCJayB0i)


 ゆっくりと向かっていったのであっちは気付いていない。ドラゴンが、私の反対側に向かったシュウ君の方を向いた瞬間、足のくぼんでいる所を狙って力一杯剣を振りかざした。

 バキンッ! ギュオォー。

 当然ながら剣は弾き飛ばされる。しかし、さっきとは違い少なくともダメージはいったようだ。

「カリンさん、ナイスヒット!」

 シュウ君とアリシアの褒め声だ。
 ドラゴンがこちらを向く。なんだろう。目が何かを訴えかけているように聞こえる。ドラゴンはギャオゥと吠える。というか叫ぶ。痛がっている。

「一気にいきます。アリシア!」
「行くで、3、2、1……今や!」

 アリシアの合図でシュウ君が尻尾を振りかざす。すると、シュウ君のいる大地に亀裂が入り、一気にバカッと割れる。その大地をアリシアの浮遊呪文でシュウ君ごと持ち上げる。一撃で仕留めるつもりのようだ。
 シュウ君は右の前足で円をさっと描き、大きな地面を6つに分裂させた。ギャイを倒したアレだ。

「カリンさん、離れて! はやく!」

 シュウ君が馬のように前足を上げながらそう叫ぶ。しかし、私の足は言うことを聞いてくれない。

「──う、動かない」

 私の前にある赤紫の壁に6つの岩達が襲いかかる。ドラゴンはギュオォー! と鳴き、翼を一気に動かして空中に舞い上がる。
 あ──足から血が出ている。ドラゴンの足から。私の……。

「シュウ君やめて!!」

 私は必死に叫んだが、彼にその言葉は聞こえなかった。全ての岩がドラゴンに当たり、粉々になる。

 ウギャオォン! ──。

 力尽きて落ちる壁。当たった岩が小さな石ころとなって顔に当たる。まるでドラゴンの涙のように。
 ドラゴンがドサッと横たわると、赤紫だった体は赤へと変わっていった。

「……私のせいで」


「やったな! カリン! シュウ、こいつに乗ってけるやろ?」
「うん。ギリギリセーフだったね」

 その場に立ちすくむ私を見つけて、2人は心配そうに駆け寄ってくる。まだ足は動かない。なにも、なにもなにも。

「カリン……さん?」

 あの子は悪いドラゴンではなかった。殺す必要はなかった。だけど私のせいで。最期のドラゴンの目は泣いているような気がした。
 目に何か感じた。しょっぱかった。なにか他にできることはなかったのかと。

「泣かへんでええ」

 アリシアが私をなだめようと声をかける。シュウ君は口に手を当ててなにかするが、ぼやけて見えない。シュウ君はそっと私に近づいて、頭をゆっくり撫でてくれた。もっと涙が溢れた気がした──。

2章 2話 №9 ( No.65 )
日時: 2015/02/22 10:56
名前: 占部 流句 ◆PCElJfhlwQ (ID: zCJayB0i)
参照: 2話 無事終了!

 すこし時が過ぎると心は段々と落ち着いてきた。

「ごめんね。もう大丈夫」
「うん。じゃあ、見ないほうがいい」

 私が後ろを向くとカサカサと音が聞こえてくる。蘇生呪文だ。1分足らずで「もういいよ」と言われ振り向くと、そこには心が無いように見える目をする赤いドラゴンがいた。
 私はゆっくりドラゴンに近付いてそっと手で触れる。

「……あ、トクトクしてる」
「すごいやろ。心臓までしっかり蘇生できるのはなかなかいぃへんやで」
「そんなことないよ」

 フゥと息を吐き、ドラゴンの足に私の足を掛ける。よいしょと一斉に乗っかる。シュウ君とアリシアもすぐに乗り付ける。

「おつかまりくださいね」

 そういえば人間になっているシュウ君がドラゴンの頭を撫でると翼が大きく広がり、まわりが揺れ始める。急に地面から離れたかと思うと、もうガクタラ宮殿が見えるくらいまで上にきた。

「……ん? 誰?」

 体勢が安定してきた頃にシュウ君が首をかしげる。
 ──風が吹く。
 その風は一気に強くなり、さっきまで雲ひとつない空が暗くなり始めた。なにこれ?
 遠くに一瞬雷が見えたと思ったら、そこにぽつんと光が見える。隣を見ると、ポカンと口を開けるアリシアと、光に目が釘付けのシュウ君。

「あははっ。お見事だったねぇ」

 どこからともなく声が聞こえる。光に目を戻すと、段々とこちらに迫ってきているようだ。

「シュウ? 覚えていないかい?」

「シュウ君、なに?」

 シュウ君の方をもう一度向くと、口を押さえて静止している。

「やあやあ、別に怖がる事ないよ。君がカリンだね。よろしく頼むよ」

 さっきより声が大きくなったかと思えば、目の前に黒いシルクハットが見えた。

「せ、先生……」
「わかるじゃないか。君はやはりいい人材だ」
「な、なぜ先生が!? あいつのせいですか?」
「彼は偉大だ。私から近付いた」
「そんな……クソッ」

 私の目の前のシルクハットはふわふわと漂い、私の手に落ちた。それと同時に雲は消え、風も止んだ。

「カリン。そんなもの捨てろ」

 シュウ君が見たこともない怖い顔をしてこちらを見てくる。私は慌ててシルクハットを放り投げ「ほいっと」とひと言。

「シュウ。あの人、誰や?」
「先生だ。魔法学校の担任の……」



   ……to the next story.



2章 3話 №1 ( No.66 )
日時: 2015/02/22 10:59
名前: 占部 流句 ◆PCElJfhlwQ (ID: zCJayB0i)
参照: ゆっくり書いたのが仕上がったので。三月になったらちゃんと更新します

*〜* 3話 *〜*

 彼が落ち着くまで、少し時間がかかった。大丈夫になったときには、もう街が見え始めていたのだ。
 見えた街は、ガクタラとは打って変わってビルや高い建物が所狭しと建ち並ぶ、東京のようだ。

「ナルハピピは帝国なんや。うちらの国じゃなくて、独立してるねん」
「でも、治めている人はいい人だよ」

 シュウ君の話によると、ガクタラの工業技術とは違い、魔法術や薬草術の〝非科学的〟な専門家が集まるという。
 王家の人間もここの優れた薬草術を使うそうだ。しかし、国民はこちらの王家が嫌いなようで、そういうことはトップシークレットだそう。

「そろそろ降下するから、しっかりつかまってね」

 私は「うん」と言い、ウロコにつかまる。冷たい……。


◇◆◇


 ドラゴンが地面に着いたのを確認して、3人はナルハピピの街へと降り立った。ここは、どこかのビルの屋上のようだ。カツカツと靴が音を立てる。

「目、つぶってて」
「いい。見てる。私のせいで……ね。ごめんね」

 シュウはまたドラゴンに手をかざす。すると、ドラゴンの体が段々と薄くなってゆく……。
 ドラゴンの体が完全になくなるまで、さほど時間はかからなかった。カリンは「さよなら」と言い、手を合わせる。

「セト……様」

 アリシアは心配だった。国王であるセトは、少し高齢という事もあって、体調が前から良くないと聞いた。
 セトはこの世界に数少ない翼(ウイング)を持っている者だ。由緒ある天使でさえも、翼を捨てた者の1人である。
 翼はなにかと厄介だ。
 昔に関しては、差別の対処でもあった。セトもまた、いじめられていたのだ。しかし、彼は今、国王として、皆に尊敬させる身。翼を守るための活動も行っている。そんな彼が、命の灯火を消そうとしているのだ。

「駄目です。国民に気付かれてしまいます」

 肩まである白髪混じりの立派な黄色い髪をなびかせながら、誰かがヒソヒソ声で話しかける。セトの付き添いでやって来た、大臣のチェゼルだ。蒼い目が透き通るようにこちらをみている。
 一方セトは荒く息を吐き、白と黄色の毛を逆立てる。とても苦しそうなのは見なくてもわかる。コンクリートの壁で挟まれたこの部屋は、空気が悪かった。

「チェゼル。私はもう無理だ。使いたくなかったが、アレを……」

 セトがそう言うと、チェゼルは凍えたようにぴたりと止まり、「いや、しかし」と思わず戸惑いをあらわにする。
 しかし、セトにはもう時間がなかった。仕方なく立ち上がると、チェゼルはフゥと息を吐いた。

「では、アレを使わせていただきます。本当にいいのですね?」

 セトはコクっと頷く。チェゼルは精神を集中させて、呪文を唱え始めた。