コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 2章 3話 №3 ( No.68 )
- 日時: 2015/03/02 20:03
- 名前: 占部 流句 ◆PCElJfhlwQ (ID: zCJayB0i)
木々は踊り狂い、小鳥たちは必死に叫び続ける。この風景こそが〝死の湖〟とも呼ばれるパール湖の真実の姿だ。
外見、美しき湖のなかには、そんな風景がずっと広がる。
「わぁ。キレイな湖!」
何も知らないカリンのみがはしゃぎ回る。シュウとアリシアは目を光らせ、敵に備えていた。
「でも、ここ森じゃないよ? どうやってと、うわっ──」
カリンが青々とした地面に転げる。どうやら草結びで湖に入るように仕掛けたらしい。
カリンの足に引っかかった草をといてから、シュウは口を開いた。
「カリン。よく聞いて。ここは危険な湖だ。僕たちは人間魔法を使えるから脱出できるんだ」
そして、アリシアも続ける。
「この中にいる鳥は生命力が強いんよう。やから、絶対役に立つん」
でもな、と言ってアリシアはやはり危険と言うのを伝えた。
シュウが透き通った湖の水に手を伸ばす。手を触れた瞬間、「うっ」と言い右腕を抑えた。目をぎゅっと閉じ、歯をくいしばる。かなり苦しそうだ。
「ふっ……。凄い力だ。しかも、かなり悪に染まってる。きっと何十人もの黒魔道士がかなりの時間をかけてやったんだろうね」
メガネを取ってポケットにしまうシュウの顔は笑っていて、怖かった。
◇◆◇
私達は、シュウ君を先頭に静かに湖の水に足をつける。指の先が冷たく、ピリピリと痛い。これが魔力かぁ。と妙に感心した。
「ちょっと痛そうだね。やっぱり……」
何か言おうとしたが、口を濁すシュウ君。また前を向いて、「あと3歩で沈むからね」と、2歩歩いてみせる。そして、もう1歩足を踏んだ瞬間──まばたきをしていないのに、彼の姿はもう無かった──。
「あっ、シュウ君!?」
私が歩みを進めようとすると、アリシアがあっと言ったのが聞こえた。しかし、私が数歩歩いただけで、目の前が真っ暗になった。
急に視界が開くと、足の下は森だった。この世界に来て、何回目の落下だろうか。ギャイの時、ドラゴンの時……なんて事を考えていると、地面はもうすぐそこに迫っていた。
どすっ。
お、落ちた。しかも、尻もちをついてしまった。私は手をグッとついて立ち上がり、周りを見渡す。
完全に森だ。湖のなかじゃない。さらに驚いたのは、私が息をしている事だ。水のなかで息ができないのは、小学生でも分かる。
科学では説明できない事があるのだろうか。どうせ私にはわからない。文系だもの、ふふっ。
右を向くと、少し遠くに人影が見える。きっとシュウ君だ。私が「おーい!」と言いながら手を振ると、あちらも手を振り返してくれた。
「カリーン、アリシアはー?」
あ、そういえば……。どすっ。
「いってーなぁ。あ、カリン! ダメやぁ言うたやろ」
アリシアは、よいしょと立ち上がり、私を説教した。
パール湖の魔力は実に簡単で難しい。一定線を越えたものは全て飲み込まれる。ちなみに、ここはパール湖の内部ではなく、簡単に言うと異次元だと、アリシアは説明する。
「そういうことね。それで、鳥さんは?」
私が疑問を投げ掛けると、こちらに着いたシュウ君が答えた。
「耳を澄まして……ほら、聞こえるでしょ」
「え? ん、あ……あぁ」
聞こえたのは、軽やかに歌う鳥の声では無く、邪悪で苦しみに満ちた数々の叫び声であった。
「このなかで、歌う鳥を見つけるんだよ。大丈夫、簡単だよ」
もっと、心で聞いて。という彼の言葉に従って、1度大きな深呼吸をした。鳥……とり……トリ……。
あーっはっはっはっはっ。
うきゃーっ! あぁっ!
シャー。シャー。ピピッ。
こ、これだ! 今聞こえた。鳥の鳴く声。限りなく軽く、高らかだった。
「その顔ってことは、わかったんやね。おふたりさん」
「ん? ああ」
「2人はなんかわかった時、同じ顔しよるんよ、ふふ」