コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 戴冠式の日の小さな奇跡 ( No.71 )
- 日時: 2015/03/07 20:32
- 名前: 占部 流句 ◆PCElJfhlwQ (ID: zCJayB0i)
- 参照: 遅くなって申し訳ないです
*参照〜900突破記念*
いつも本作品をご覧いただきありがとうございます♪ 本当はもっと早く出したかったんですけどね(・・;)
参照1000はまだですが、それも含めて記念小説という形にさせていただきます。
☆番外編〜戴冠式の日の小さな奇跡〜
彼の名はセト・カルシュワル・ドゥ・ミスターチといった。ミスターチ家に引き取られた身である。
それは彼が5つも歳のいかない頃だった。父は翼(ウイング)の持ち主ということで、彼が産まれてすぐ殺された。母も、病で死んでしまった。彼は親戚をたらい回しにされ、ついにミスターチ家の家来の1人。カルシュワルの元へとやってきたのだった。
カルシュワルはと言うと、彼を我が子の様に大切に育てた。当時国王のセインにも事情を話し、広い宮殿の中庭で、ミスターチ家の子供や、他の家来の子供たちと目一杯遊ばせた。自然が豊かで、小鳥も住み着く中庭は、彼にとって絶好の遊び場となったのだ。
2人が家に帰ると、ミスターチの妻がニコニコと笑みを浮かべて待っていた。まだ小さい、自分たちと姿も違う彼を、彼女はいつでも優しく面倒を見た。
彼が10くらいの歳になると、彼はその知性を発揮した。中庭で遊ぶ時には、他の子供をしのぐ程の運動能力を見せ、小鳥とは会話もできた。カルシュワルが、将来の役に立つと言って教えていた外国語も、この頃にはカルシュワルと対話できるくらいになっていた。皆は彼を神童だと呼んだ。しかし一方で、翼を持つ彼を非難する者を現れた。
彼はその後もずば抜けた才能を発揮し、15になる頃には家を出て、ミスターチ家宮殿内で働くようになった。ちょうどカルシュワルの妻が亡くなったくらいの頃だった。
彼の腕は、翼と共に生きる。なにかと厄介な事もあった。例えば当時介護の必要があったセインを背負う時、翼の羽根が邪魔だった。
セインが亡くなると、彼の子供が王位についた。すると、セトを次期王にという提案も出された。彼は生物としても、家来としても優秀で、政治を任せてもいい程の頭を持っていたからだ。王が納得すると、その話は宮殿外にも広がった。
その頃、彼は公務にも少しずつ参加するようになった。ある時、参加者が集まり過ぎて、混乱状態となった。それを彼は大きな身体をうまく利用して、しっかりと誘導したのだ。王はそれにも感動し、次期王というのに自分の1票も捧げた。
王位が彼に移ったのは、実に彼が22の時で、王家ではかなり若い方だった。無論、王家以外の者が王位につくのは初めてで、賛否両論であった。
戴冠式当日。厳かな雰囲気で行われる会場に、突然の雷撃が落ちた。後の調べによると、死傷者は52名。会場の1割ほどとなった。皆がその方向を向くと、そこにはセトと同じくらいの歳の、1人の少女が立っていた。その少年は「お前なんぞ!」と言い、セトの方へと向かっていった。手に握り締めているのは、杖だ。使い古されていてボロボロになっている。
少女がセトの目の前に立つと、突然禁止術の死の魔法を唱え始めた。ほほうとセトは頷き、少女の杖に触れた。その時の衝撃は伊達にならないものだっただろう。セトは苦しみを抑え、杖を伝って意思疎通を試みる。なかなかできないようだ。するとセトは口を開いた。
「わたしを殺したいのなら殺せ。しかし、皆を巻き込むのはやめてくれないか? みんな、わたしの愛する者たちだ」
少女は呪文を唱えるのをやめない。聞いたもの全てを死に追いやるこの術からなんとか逃れようと、会場は大混乱だった。セトは続ける。
「わたしは翼を持っている。そんなわたしを育ててくれた人がこう言った。〝生とは、どれだけ他人を愛すかだ〟」
すると少女の手が一瞬だけ緩んだ。その隙を見逃さずに、セトは杖を自分の方へよせる。
「ほら。君だって愛している者がいるだろう? 一緒に来なさい」
彼は笑みを浮かべてそう言った。人々は小さな奇跡と喜んだ。
その後、少女がどうなったかは誰も知らない。処刑されたとか、セトと結婚したとか噂があるが、きっと少女も愛する者と一緒に、幸せに生きているのだろう。