コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

2章 3話 №4 ( No.72 )
日時: 2015/03/12 21:59
名前: 占部 流句 ◆PCElJfhlwQ (ID: zCJayB0i)


 かなり深い森のようで、歩いても、歩いても、声は一向に大きくならなかった。まるで同じ道をぐるぐる回っているようだ。

「あれぇ。全然近づかないよ」
「せやな」

 アリシアもはぁとため息をつく。私はシュウ君に目をやると、シュウ君も困った様子であたりを見回していた。

「んー? ここ、さっきも通らなかった?」

 今歩いているここも、なんとなく見覚えがある。そんな気がする。シュウ君に了解を得て、着ていた上着を木に引っ掛けるようにした。これでここを通った時にわかるという事だ。

「じゃあ、頑張って行こうか」

 シュウ君の声に「うん」と返し、上着を見失わないように歩く。
 ついに上着が見えなくなって数秒後、私達3人の足は止まった。さっき木に引っ掛けたはずの上着が、前方の木に現れたからだ。しかも、その木の形も、さっきと全く変わらなかった。

「う、嘘やろ……」
「さっき見えなくなったのにぃ」

 拗ねた女子2人を見ながら、シュウ君は腕を組んだ。そして、やっぱりか……と呟き、口をひらく。

「魔法だよ。なにかが可笑しいと思ったんだ。やっぱりここ、侮れないね」

 シュウ君は、その後黙々と喋り続けた。
 何百年も前、黒魔道達はここで数々の魔法をかけた。具体的にというと、まずは湖の底に異空間を作る事。そして、そこに永遠に人達を閉じ込める事。これをするためには、かなりの人手と、時間がいる。

「昔は王家と黒魔道士は対立していたから。きっと王家の人を閉じ込める用だね」

 散々苦しめてから心臓を奪い取る。それが彼らが好んだやり方だという。当時王家は魔法を拒んでいたから、かなりの死亡者が出た。

「僕でもここまでのはかけられないな。でも、解けるかな……」

 ここにかけられている魔法は実に単純で、前に進みたい者を無限ループさせるものだ。つまり、私達3人は前に進むことすら許されない。黒魔道士なら、通れるという。人によっては近き道。また、人によっては遠き道だ。

「僕1人じゃ無理そう。……あ。アリシア」

 シュウ君がアリシアの方を向く。よくアニメで見る、ピコーンと頭に電球がついたよ──。

「あぁ! わかったわかった。わかったよ! アリシアが手伝えばいいってことでしょ!」

 私が自信たっぷりで言うと、シュウ君はガクッと顔を横に曲げ、頭をぽりぽりとかいた。

「違うよ。アリシアのワープを使えばいいんじゃないかって」

 ぐっ、やられた。しかし、ここでこんな姿は見せたくない。私は「ボケたんだよ。ボケ……ね」と誤魔化すけれど、完全にみんな言葉を失った。

「じゃ、じゃあ。アリシア?」
「おう! いくでぇ」


◇◆◇


 彼らが出発してから、実に2時間の時が経っていた。チェゼルが顔をしかめる。3人に何かあったのだろうか。

「セト様……私は一生あなたから離れませんから、ね。」

 セトは相変わらず、安らかに眠っていた。息も立てないほど静かに。チェゼルはそんなセトの手を撫でながら、昔の事を思い出していた。

 チェゼルが初めてセトに会ったのは、セトが即位した日だった。戴冠式から帰って来たのを、当時王宮に使えていた彼がちょろっと見ただけだった。しかし、チェゼルは確信していたのだ。セトに一生ついていくと。
 セトが国王になると、ガクタラの街はますます栄えた。セトはまず、法を整え、道を整備し、人々の声に耳を傾けた。特に力を入れた教育法は、海外からも支持され、年に何回も街の教育場を見に来る大臣がいた。チェゼルは、セトの全てが完璧に思えた。
 チェゼルも自信があった頭で、大臣まで登り詰めると、憧れのセトと接する事も多くなった。チェゼルの輝く目を、セトは気に入り、一緒に政治をする事もあった。今に至るまで、数え切れない程の思い出が、チェゼルの頭をよぎる。
 はぁ。とため息をつくと、握っていたセトの手が、微かに動いた気がした。まるでセトが〝ため息などつくな〟と言っているようだった。