コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

2章 3話 №8 ( No.78 )
日時: 2015/03/23 21:09
名前: 占部 流句 ◆PCElJfhlwQ (ID: h5.UUysM)


 アリシアを強引に連れて、王様を探すこと1時間。そろそろ日が暮れてきたので、今日は諦めてここの森で野宿ということになった。
 しかし、寝床を整える前に鳥を調教する必要がある。さすがにこのまま網の中だと鳥が弱ってしまうからだ。

「ちょっと痛いけど……」

 そういうと、シュウ君は腰に差してあるナイフで自分の親指を撫でるように切った。真っ赤な血がにじみ出る。
 その流れ出た血を口に含むと、アリシアから鳥を優しく救い、網から出す。そして、そっと口をくちばしへとつけた。

「こうやって自分を覚えさせるんだよ。じゃあ、次はカリン」

 シュウ君が、手に持ったナイフを私の右手の親指に当てた。銀に輝くナイフの刃は、少しずつ私の親指に切り込みを入れていった。

「くっ。痛っ……」

 ナイフの刃が親指に当たっている時に、私は少し手を引いてしまったので、血が予想以上に流れ出た。

「あっ。すみません」

 シュウ君が慌てて私の親指に口を当てた。10秒ほど止血をすると、完全に血は止まった。

「あ、血……」

 私がそう言えばと言うと、彼は「こうすればいい」と言って、一歩前へと出た。
 ──ふっ。少し温かいシュウ君の唇は、しっかりと私の唇に触れていた。こんな気持ち、初めて。なんだか嬉しくて、心臓がトクトクいってるのがわかる。そして、シュウ君の胸に手を当てると、彼の心臓もゆっくりと命を刻んでいた。

「あふっ。と、鳥にね。急がないとね」

 私はすぐにシュウ君から離れて、鳥のくちばしに血を流した。シュウ君には劣る気持ちだった。

 最後に残ったアリシアは、まだ目の色が濁っていた。さっきの私たちを見られていなくてよかったと思い、シュウ君は親指に切り込みを入れた。

「……終わったぁ。じゃあテント張ろうか」

 シュウ君がクルッと1回転すると、ネコの姿となった。そして魔法を唱えると、木が4本根元から浮遊し、自ら割れて木材となる。更に、あっという間にウッドロッジ張りのテントと、キャンプの定番、キャンプファイヤー用の組み木が完成した。

「カリン、とりあえずアリシアを中に連れて行ってあげて」
「うん。あ、鳥は? 大丈夫なの?」
「僕がもう少し調教する。今日は眠れないかもね……まあ、いいか」

 私はアリシアに肩を貸して、「お願いだから、無理しないでね」とシュウ君に言う。「大丈夫、大丈夫」と言うと、シュウ君は走り去ってしまった。
 木のロッジは釘1本使っていない、宮大工のような造りなのに関わらず、中はすごく暖かかった。木の恩恵という事だろうか。
 アリシアを横にして、私の着ていた……ってあれ。あ、そうだ。湖の中に上着を置いてきてしまった。しょうがないので1度外へ。茶色い木の葉を沢山集めてロッジの中に敷き、ベッドのようにした。その上にアリシアを寝かせて、私はその横に座った。

「アリシア、きっと王様は大丈夫だよ。チャゼル、チェゼルさんだったっけ。凄く優しそうな付き添いの人もいたし……大丈夫、大丈夫」

 さっきシュウ君から聞いた言葉も合わせて言い聞かせた。すると、アリシアはゆっくり目を開けて、モゾモゾっと何か言った。

「ん? なあに」
「お前ら、イチャイチャしやがって……ほんまなあ」

 私は言葉を失った。

「あ、あはは……」



*────────────────*


【筆者のひと言】
久しぶりのひと言コーナーです(笑)
お知らせはなんと2つ。

ひとーつ。短編の方の執筆を終了させていただきます! 今まで本当にありがとうございました。

ふたーつ。新作小説執筆中です! と、いってもまだラフ書き程度……。きっと公開は4月になると思います。お楽しみに……!(こんなハードル上げていいのか)