コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

2章 3話 No.10 ( No.82 )
日時: 2015/04/04 21:50
名前: 占部 流句 ◆PCElJfhlwQ (ID: h5.UUysM)


 走り始めて5分も経たずに、森は急に開けた。そして、そこは崖だった。

「カリン。ど、どうする?」
「あ、でも下には街が見えるよ! ここ、降りられるんじゃない?」

 何十メートルも下に街があるのは確かだ。私が「アリシアみたいに浮遊術とか使えないの?」と言うと、シュウ君は「さすがに2人はキツイなぁ」と、ため息混じりで言った。
 困った。開けているのはここだけで、ここが崖の先端のようだった。
 ピピ……は飛べるけれど私たちを運ぶ様な力は無いし、私だって完璧に魔法が使える訳では無い。

「頑張るしかない……ね」

 シュウ君も苦肉の策のようだった。僕を浮遊することはできるけど、カリンを浮遊させたら距離がもたない。そういう考えだった。
 考えろ、私。
 考えろ……私……。
 無理です。私にいい案が浮かぶと思った自分がバカでした。

「あ、カリン。浮遊術やってみれば?」
「──え?」

 明らかに無理な事を言っているのは彼は承知なのか。

「無理だよぉ」
「はーい。やる前から諦めない。ぶっつけ本番だから、気合い入れてね」

 まるで大学の体育の授業みたいだ。私はどうしても片手倒立が出来なかった。あの時の先生、怖かったなぁ。
 と、こんなことを考えている場合ではない。私の命がかかっているのだ。

「やり方は簡単。スリーステップね」

 今度はテレビの通販番組みたいに喋り出すシュウ君。
 ひとーつ、お腹に力を入れる。
 ふたーつ、精神集中。
 みーっつ、浮く。

「ちょちょ。待った! 2個目まではわかるけど、3個目は何?」
「ほら、浮く時の感じってうまく説明できないから……」

 いやいや、うまく説明するのが通販番組……ちがう。教えるってことだろう、と心の中でツッコミを入れる。

「こうね、ふわぁって感じ。ぶおん、じゃなくて、あくまでふわぁって」
「はいはい」
「はい、は1回!」
「は、はいッ!」

 再び体育教師と化したシュウ君は、お手本と言って浮遊。崖をゆっくりと、トコトコ降りていった。
 シュウ君が見えなくなったら私の番だ。全然教え方が上手くない熱血教師の指導で、一体私は飛べるのだろうか?

「ひとーつ、お腹に力を入れる」

 ぐっと力を入れた。

「ふたーつ、精神集中」

 これは慣れたものだった。心の武器を出す時同様、目を静かに閉じて、精神を集中させた。

「みーっつ、浮く」

 ふわぁっと。ふわぁっと。お願いだから、浮いてーっ……。
 どうやら天の神様に私の祈りは届いたらしい。身体が不意に浮かんだ。

「どわっ」

 いきなりだったので、体勢を崩しそうになるが、なんとかもとのポジションにセット。一歩づつ歩いてみると、前に進んだ。
 できた。やっぱり私は素質があるのだろうか。いやあ、後でシュウ君に褒めてもらおうっと。

「カリーン!」

 下の方で、私を呼ぶシュウ君の声が聞こえる。段々近づいているようだった。
 声の大きさからして、恐らく地上まであと10メートル。9メートル、8メートル。
 ────! 落ちる。一瞬気が抜けた隙に、浮遊術が解けてしまったようだ。

「うわっ。シュウ君!?」
「カリン! こっちこっち……」

 ストン……。