コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: Sweet×Sweet ( No.1 )
- 日時: 2014/10/06 18:42
- 名前: ヒナ (ID: 4CQlOYn7)
【本当の幸せ】
——ああ、もう。
時間が過ぎるのがこんなにも、遅く感じる。
「早く帰りたいのに……」
私、山本紗花は、小さく呟いた。
ただいま、本日最後の授業の真っ最中。
やけに時間がゆっくりで、時間はのんびりさんなんだな、と思ってしまう。
早く帰りたい、と思えば思うほど時間はゆっくりになってしまう。
それはわかってはいるのだけれど、そう思わずにはいられない。
口の中に息を貯めて、ぷぅーと吐き出す。
今は私の嫌いな数学の授業だからさらにつまらない。
先生が黒板に書かれた問題を解いていく。
——先生授業下手だから、みんな寝てるんだよー。
なんて、文句を言っていると、チャイムが鳴った。
机に顔を伏せていた生徒が一斉に立ち上がる。
それをみて先生は不服そうな顔をしたが「じゃ、号令」と諦めたように言った。
クラス委員が号令をするのを聞きながら私は、胸を高鳴らせていた。
——あぁ……もうすぐ会える!
帰りの会もろくに耳に入らない。
心臓はとくとくと、何度も早鐘のようになっているのに。時計の秒針はゆっくりだ。
帰りの挨拶ももどかしく、私は走って教室を出た。
数人にぶつかりそうになったが、もう少しのところでそれをかわす。
靴に足を突っ込みながらまた走り出す。
走りながら手櫛で髪を梳かしながら校門の前に立つ、背中に向かって全力疾走。
11月の冷たくなった風がスカートからでた足を掠めて通っていく。
「翔太!」
彼の名前を呼ぶ。
本を読んでいたのか、携帯をいじっていたのか、それをしまうとこっちを振り返った。
「遅い」
「ご、ごめんなさい。でもでも。翔太が時間より10分も前に来てるからだよ!」
不機嫌そうな彼の顔を見上げて言う。
私が反論したせいか、さらに不機嫌そうに眉間に皺が寄る。
「でも、3分遅れだ」
時計を見ながら、翔太は歩き出してしまう。
待ってよ、と言いながら翔太の横に並ぶ。
翔太はせかせかと歩くけど、私の速さに合わせてくれる。
そういうところが、私は大好きだ。
松本翔太、中学1年のころ私が一目惚れした人だ。
黒いサラサラそうな髪に、少し冷たい印象の同じく黒い目。知的そうなメガネは彼にぴったりだ。
そんな彼に私は猛アタックを続け、やっと中学卒業時、オーケーしてもらえた。
高校は、翔太は頭のいい進学校に行き、私はそこそこの学校へ。
違う学校だから、心配な事とか、さみしいとか、いろいろある。
でも、いつもこうして翔太が校門まで迎えに来てくれるから、それだけで、不安とか全部吹っ飛んじゃう。
「なんだ、間抜けな顔をして」
いつのまにか顔が緩んでいたのだろうか、翔太は少し呆れたような顔をしてそういった。
「ま、間抜けって! 酷くない!?」
「実際そうだから言っているんだろう?」
翔太の腕を掴んでブンブン振ってやる。
殴ったってどうせかなわないから、せめて少しでも不快になるようにと、ちょっぴり反抗してみる。
すると、やはり視線を逸らしながら、
「やめろ、不愉快だ」
と言った。
「やった。私の勝ち!」
とかなんとか、誤魔化しながら、掴んだ腕に腕を絡ませる。
自分でも顔から火が出るほど恥ずかしい。
けど、ちら、と翔太を見上げると、真っ赤にした顔をマフラーに埋めていた。
——な、なにそれ。反則だってば!
思わず顔を逸らすが、それより半秒はやく翔太がこちらを向いた。
「み、見るな。恥ずかしい……」
逸らした視線をもう一度上げてみると、そう言われてしまった。
けれど、翔太から目が離せなかった。
マフラーだけでは足りなかったのか、反対の手で顔を覆っていて……。
——翔太、すっごい照れてる……。
「しょ、翔太……顔真っ赤だよ……?」
「う、うるさい!」
ちょっぴり焦ったような、上ずった珍しい声。
なんだか、嬉しくて、
「まーた。顔が緩んでるぞ」
と、注意されてしまう。
「だ、だって。翔太が可愛いから……」
つい、本音を言ってしまう。
言ってから、はっと我に返る。
——私ってば。こんなこと言ったら、翔太怒るんじゃ……
けれど、それは杞憂で、控えめに翔太を見上げると、今度は耳まで真っ赤にして顔を手で覆っていた。
「……ば、馬鹿か。す、すす……」
ようやく本調子の罵声が聞こえたかと思うと、す、を連呼し始めた。「ど、どうしたの? 翔太?」
急に変になったから、照れすぎて頭おかしくなったのかと思う。
でも、次の言葉は、今度は私をおかしくしてしまう。
「す、紗花のが……可愛いだろ……」
「…………え?!」
私はその時、これが本当の幸せなのかなぁ、なんて思っていた。
End.