コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: Sweet×Sweet ( No.17 )
日時: 2015/05/02 18:14
名前: 左右りと (ID: TUeqjs.K)
参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs/index.php?mode


【ヒヤシンス・白 1/4】ちょっとひかえめ



「ねぇねぇ、キミ一人? 一緒にカラオケいかね?」

 喧騒に包まれた駅前。その男は可愛らしい女の子に声をかけている。鼻の下が伸びているがそれを隠そうと努めている。
 そんな彼を鬼のような形相で睨む女の子が、一人。彼女の名前は桧木紗瑛ひのき・さえ。ナンパ男のクラスメイトである。


「風見頼人! 学校をさぼってこんなところで、ナンパなんて悠長なことしているんですか!!」

 先ほどの女の子にOKされたのか、鼻歌でも歌いそうな機嫌のよさで歩き出した男の肩を掴む。
 男——もとい風見頼人かざみ・よりとは紗瑛の声にぎくり、と肩を強張らせる。壊れたロボットのようにぎこちない動きで振り返ったその顔はいくつもの冷や汗が伝っていた。


「か、かいちょー? な、なななんで……こんなところに?」


「ここにわたしが居ては、おかしいですか?」

 わたしが質問に質問で返すと、少し落ち着いたのか先ほど女の子に向けていたような笑顔を貼りつけた。全く。どうして作り笑いなんて。

「おかしいも何も。生徒会長が学校抜けてこんなところいたら、誰だっておかしいと思うはずだよ」

 いつの間にか先ほどの女の子がいなくなっている。だがそんなこと今どうでもいい。

「あなたと一緒にしないでください。わたしはしっかりあなたを連れ戻すという大役の命のもとここにいるんです。先生にも許可はもらっています」

 そういうと頼人の顔に先ほど引っ込んだはずの汗がまた伝い始めた。いくつもの筋となったそれは、ぽたぽたと顎を伝い落ちる。その間にも頼人の目は、あっちこっちに泳ぐ。

「帰りますよ、風見頼人!!」

「えぇ………………でも、でも会長? 俺制服もってな——」

「抜かりはありません」

 言われるであろう言葉を遮り、紙袋に入っている予備の男子制服を掲げてみせる。学校を出る前職員室で借りてきたのだった。

「ですよね—。……じゃ、それ貸して。そこのコンビニのトイレで着替えてくるから。先にもどっ——」

「今日の昼食を買うのを忘れていました。丁度いいです一緒に行きましょう」

「ですよね—」

 

 
 コンビニで駄々をこねてみたが「着替えないならわたしが着替えさせます」という紗瑛の言葉に頼人は結局観念して着替えた。


*


「手がかかります。面倒です。あなたはトラブルメーカーですか。面倒ごとばかり起こして。それの処理は全部わたし。なぜです? 先生たちはわたしをなんだと思ってるのです。爆弾処理班ですか? だったらあなたを瞬間冷凍していいという許可が欲しいものです。だいたいあなたはカラオケに行って何するのですか。歌を唄って楽しいですか。それともなんですか。不純異性交遊をするつもりだったのですか? それこそダメです。手に負えません。大した見返りもないのに授業の時間を無駄にして。先生たちはわたしに進学させたくないのですか。だから授業に出られないようにして、勉強に追いつけないようにしているのですか。……まさかあなたは先生たちとグルなのですか? そもそも——」

「スト————ップ!!!」

 いつもはすぐ終わるはずの紗瑛の愚痴が、今日は延々と続きそうな——否、続いているので話の変わり目で口を挟む。紗瑛は不機嫌そうに顔を上げると「あなたにストップと言う権利はありません」と低い声で言った。これはヤバい。紗瑛はかなり怒っている。
 何をいってもダメそうな雰囲気。しかたなく諦めて紗瑛の話——ほとんど愚痴だが——に耳を傾ける。

「そもそもなんで私なのです? わたしが生徒会長だからですか。教師どもはあれですか、最近流行っている給料泥棒というやつですか。公務員だからって調子乗ってるんですか。この税金泥棒め。わたしに雑務を押し付けて楽しんで、それでも大人ですか。そのくせわたしたちより長く生きているからって上から目線で叱りつけて。これだから大人は嫌なんです。横暴です。大人の横暴が当たり前のように横行するこんな世界が許されるなんて間違ってます。おかしいです。断固反対します。暴動を起こします。わたしたちが正しいんです、ね? 風見頼人?」

 マシンガントークが売りの芸人も真っ青だよ、コレ。こちらを見上げる紗瑛はなんてことないような顔でサラッと罵詈雑言を敬語(?) で言う。

「給料泥棒は別に流行ってないけどね」

 適当に訂正を入れると、数秒固まる紗瑛。だがすぐに前を向くと「根本的におかしいのは日本人の……」と俺の話を無視してまた喋りだす。 
 はぁ、と息をつくと紗瑛は驚いたようにこちらをまた見た。

「な、なに?」

「いえ、ただおかしなことがあるものだと……」

 ごにょごにょと小さな声で言う。さっきまでの勢いはない。

「え?」

「あなたみたいに口を開けば女の人を惑わすようなことしか言わないような人が、ため息を吐くなんて……世も末です」

 と思っただけです、とタイミングよく来たバスに乗り込もうとする紗瑛。俺は少しムッとして、タラップに足をのせかけた紗瑛の腕をつかんで走り出した。

「は!? な、何しているのです? まさかここから高校まで走って帰ろうとかそういうつもりじゃないですよね? いくら頭が悪いからってそんな無謀ともいえることを——」

「デートしようぜッ」

「はあっ!?」

 ちら、と後ろを見ると目を見開く紗瑛の顔が見える。そんなちょっぴり間抜けな表情の紗瑛にニヤッと笑ってみせると、

「不純異性交遊は認めませんッ!!」

と頬を少し赤くさせそっぽ向かれてしまった。……かわいいところあんじゃん。


*


続く(明日更新します!!)