コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: Sweet×Sweet ( No.24 )
日時: 2015/05/11 17:22
名前: 左右りと (ID: rn3pvd6E)
参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs/index.php?mode

【ニオイヒバ 1/11】変わらない友情


「凜!! 遅くなってごめんっ」

 西日が射しこむ教室に、そんな高い声が響いた。待ちわびた、そんな目で声の主を見ると、

「なんかジュ—ス奢るから許して!」

 と両手を合わせて俺をちら、と見上げる。本当は、少しぐらい怒ってやろうかと思っていたのだが、今のでチャラにしよう、といった甘い考えへと変わってしまった。俺はどれだけコイツ——坂本瑞葵サカモトミズキに甘いんだか。

「じゃあ、学校前の喫茶店でパフェ奢って」

 窓から風が入り込んで、カ—テンをゆうらりと揺らす。窓という額縁の中、たくさん汗をかいてちょっぴり辛そうに、だけどもそれ以上に楽しそうに、男子生徒がボ—ルを追っている。羨ましいくらいきらきらした彼らから目を背けるように窓を閉め、カバンを持ってそう言う。

「ええっ!? 648円の出費は痛いよっ」

 思った通りの反応に、笑ってしまう。しっかり値段を知っているところも面白い。細かいなと思ったが、そこがコイツのいいところか、と思い直す。

「じゃあ半分出すから」

 財布を取り出して、中身を確認し小さく呻いている瑞葵にそう言って歩き出す。本気で財布と相談されたらそう言わざるを得ないだろう。ホント!? と花が咲くみたいな笑顔を向けられたら、自分もちょっと財布と相談したい、なんて言えなくなってしまう。どこまでもコイツに影響されていて、なんか笑える。

「うそ」

 教室を出る間際に、後ろをついて来た瑞葵に笑って言う。

「えええええっ!?」

 瑞葵の絶叫が後ろに聞こえた。


*


「凜てば、鬼だよ。ちょっとくらいわたしにくれたっていいじゃん、チョコパフェ」

 ロ—テンポなBGMが流れる喫茶店は、夕方のなんとなくアンニュイな雰囲気にぴったりだ。茶色や白など、洋風で中世的なインテリアが女子高生に人気で、女子高生の客は絶えないらしい。そんな喫茶店に、瑞葵とパフェを挟んでいた。

 キャラメルのようにつやつやした机に、肘をついて俺の事を恨めしそうな顔で俺を見る瑞葵。そんな顔も可愛い、なんて……世界が終わってもきっと言えない。俺は何気に弱虫で臆病なのだ。

「なんで奢ってもらってんのに、あげなきゃなんねぇんだよ……」

「奢ってあげてるからだよ!! わたしがお金払うんだから、少しぐらいくれてもいいじゃん」

「………………」

 なんというか。行っていることは理解できなくもないのだけれど、コイツは俺を待たせたことに関して全く反省してないだろ。待たせたお詫びとして奢ってもらってるのに、なぜ俺が少しも分けてやらないことに怒られなきゃならないんだ?


「……ふ—ん。じゃ、か—えろ」

 少し甘すぎるパフェを黙々とつついていたら、突然瑞葵が立ち上がった。本当に不機嫌そうな顔で、机をたたく。チャリンと50円玉が転がる。

「じゃ—ね—」

 瑞葵が背を向けて歩き出す。机には650円。俺は慌てた。

「……瑞葵っ!!」
 
 ドアに手をかけた、瑞葵の反対の腕を取る。弾かれたように振り返った瑞葵が不思議そうな顔でこちらを見る。走ったりしていないのに何故か息が上がっている。でもそれくらい俺は酷く慌てていた。

「凜……?」

「どこいくんだよ。俺が一人であんな甘いもん食えるかよ……」

 少しイジワルしてやりたい、なんて思ってあげてなかったのが裏目に出た。謝るのが恥ずかしくて、そういうと瑞葵は

「最初から、そう言えばいいのに…………」

 そう言って、スタスタと机へと戻った。俺も後を追いかけて座ると、目の前のパフェがなくなっていた。ハッと視線を上げると瑞葵が、おいしさが顔から伝わるくらいの笑顔で、パフェを頬張っていた——パフェに刺さっていたスプ—ンで。

「んなっ!!」

 (こ、こここれは所謂…………間接キ……ス!!?)

「……ん?」

 勝手に独りで赤面している俺に気づいたのか、瑞葵が首を傾げた。そして、パフェと俺とを交互に見比べる。

「なああっ!?」

 ようやく瑞葵も気が付いたのか、スプ—ンを手放して口元を覆った。なんだこれ、2人してパフェに乗ったさくらんぼのように顔を真っ赤にして。今時そうそうない青春ドラマみたいに甘酸っぱいぞ?

「……べ、別に……わたしそんなの気にしないしッ!!」

 尚も赤面し続ける俺を尻目に瑞葵は、机に転がっていたスプ—ンを取って自棄を起こしたようにバクバクとまた食べ始める。口に入れる寸前ちょっとだけ止まっているとこは、気づかなかったふりをしよう。





「ね、ねぇ……凛? ともだちの境界線って、どこからどこまで?」

 スマホをいじりだしていた俺に、唐突に瑞葵が訊いてきた。

「は?」

 あまりの唐突さに、素っ頓狂な声を上げてしまう。友達の境界線……?

「いや、別になんとなく、なんだけどさ……。友達って曖昧だなぁ……って思って」

 瑞葵自身も変なことを聞いたことに気づいたのか、慌ててそう言う。何も考えていなさそうな外見して、おかしなこと考えているんだなぁ……。

「わ、わたしは! 一緒に居たいな、って思った人はたぶん友達」

 少なくなったパフェをすくって少し照れたように早口で言う。

「はは、たぶん、ってなんだよ」

「それはッ…………相手がどう思ってるか、わかんないから……。そういう凛はどうなの?」

 悲しげな顔をした瑞葵に驚いていると急にそんなふうに振られる。……ううん。

「友達なぁ……。考えたこともねぇし……。まぁ、でもそいつのこと嫌いじゃなかったら、友達……かも?」

「嫌いじゃなかったから、って…………小学生?」

 瑞葵が笑う、馬鹿にしたように。少し俺はムッとして、いいじゃねぇか、とそっぽを向く。

「あははは、ごめんごめん」

 笑ったのもつかの間、瑞葵は黙り込む。感情の起伏が激しい奴だな、と思う。怒ったり笑ったり照れたり強がったり悲しんだり笑ったり笑ったり。おもに笑っている奴だけど、たまに悲しげな表情をするから気になる。

「どうした——」

「凜ッ!! ……凛は、凜は!」

 どうしたんだ? そう訊こうと思った俺の言葉尻に被せるように、瑞葵が叫んだ。これから大事なことでも言うかのように。

「わたしのこと……嫌いじゃない? わたしは、凛の友達?」

「………………」

 絶句というのは、こういうことか。何を言えばいいのか、さっぱりわからない。瑞葵の言いたいことは、わかる。俺にとって自分は友達か、ってことだろ? それくらいわかる。でも……わからない。

———俺にとって、瑞葵は…………友達か?


 いつの間にか伏せてしまっていた顔をちら、と上げると瑞葵が泣きそうな顔で俺を見つめていた。俺は息を吸った。

「俺は…………」




——————————————————————————————————————————————————End.

【ニオイヒバ 変わらない友情】

ということで、いかがだったでしょうか? 
わたしの書きたいものをとりあえず詰め込んでみました、すみません。

では解説を(というほどありませんが)

*

ずばり凛(男)と瑞葵(女)は両想いです!! ですが、お互い友達という曖昧な関係のまま続けています。また、伝える、という選択肢は残念ながらお二人の中にはありません。
互いを想い合うからこそ、(ありきたりですが)この関係を壊したくないのです。断られて、放課後一緒に帰るような、奢ったり奢られたりするような、ふざけたりしあえるような“ともだち”という関係でいたかったのです。

しかし、ここで瑞葵がちょっぴり勇気を出します。
「わたしは、凛の友達?」
 いつまでもぬるま湯のままでは“本当の幸せ”とは、言えませんね。

*

凛がなんて答えるかは、みなさまのご想像におまかs((殴

2人が本当の幸せを知るときが来るように。変わらない友情に、終わりを告げられるように。