コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 【感謝!!】Sweet×Sweet 【参照500突破!】 ( No.29 )
- 日時: 2015/06/27 17:30
- 名前: 左右りと (ID: XaDmnmb4)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1/index.cgi
【キイチゴ】
紗瑛にすっごい避けられてる———!!
俺は、屋上にいた。広い屋上の隅っこで、膝を抱えて。嫌味なくらい綺麗な青い空が、俺のことを見下ろして嘲笑っていた。
「どうしてこんなことに……」
避けられている、と気づいたのはさっき。昼休みが始まってすぐのこと——。
「紗瑛、一緒に昼飯———」
学校に来る途中ですでに買ってあった、おにぎりやらサンドウィッチやらの入った袋をぶら下げて、俺は紗瑛にそう声をかけた。日常というほどでもないが、紗瑛とはよく一緒に昼食を共にする。
いつも通りといえばいつも通りな誘いなのだが、違ったのは紗瑛の答え。
「ごめんなさい、先約がありますので。……それから、そんなものばかりでは、十分な栄養が取れな———、いえ何でもありません。それでは……」
断られることも、よくあった。でも、そのあとに続く長ったらしい、俺の昼飯に対する酷評が途切れることはなかった。時間がない時は無言で、野菜ジュースを差し出して去って行った。
そんな紗瑛が、途中で話をやめた。
——なんで……?
そう言えば、と俺は思い出す。たしかあの時も……。
「紗瑛!! 見て見ろよ、コレ。昨日の国語の小テスト、39点だって!」
俺が久しぶりに一桁以外の点数を取ることができた、国語の小テスト。この前紗瑛から借りたノートが、とてもわかりやすくまとめられており、そのおかげかもしれない。そんなことを伝えようと、国語の授業が終わってすぐ、彼女のもとへと向かった。
「そうですか、それはよかったですね。わたしはトイレへ行ってきます」
俺と紗瑛との間に壁を作るような、冷たい声色で紗瑛は言った。凍りついた俺を、一部始終を見ていたクラスメイトが慰めてくれたが、それよりも紗瑛が気になった。
思い当たるのは、これだけではない。
科学の授業、俺は眠かったので授業をさぼり、屋上へと向かった。心地いい気温と、時折吹く少し冷たい風。最高の条件がそろったそこで、寝ずにはいられない。それに、もし寝てしまったとしても、紗瑛が授業に連れ戻しに来てくれるだろう。
そんな甘い考えのもと、俺はちょっぴり固い地面へと寝ころんだ。
どれほど経った頃だろうか。俺の体が揺さぶられ、呻くように目を開く。
「風見くん……、起きて! 先生、怒ってたよ?」
視界にうつったのは、紗瑛ではない、黒髪ボブの女子。見たことあるような、ないようなその子は、俺が目覚めたことを確認すると、パパッと立ち上がって、行こ? と首を傾げた。
『早く起きないと、髪の毛がなくなりますよ。10秒ごとに髪の毛一本抜いていきますからね』
よみがえる、紗瑛の言葉。俺のことを屋上まで起こしにきた紗瑛は、そう宣言し、実行した。曖昧な意識の中、紗瑛の言葉が理解できず、そのまま再び眠りへ———行こうとした。
『痛ってぇッ!』
髪の毛を抜かれる痛みに、飛び上がると……紗瑛はくすくすと笑っていた。それこそ天使のような微笑みだったが、手には引っこ抜いたであろう俺の髪の毛が握られているのだから、恐ろしい。
『さて、行きましょう。こんなところで、授業の重要なところを聞き逃すなんてバカバカしいですからね。……ここから教室まで、1分経つごとに、貴方の持っているシャーペンの芯一本ずつ折ります。なので、ゆっくり行きましょう』
シャーペンの芯なんて、と思うがそれでもシャーペンの芯がなくなるのは、困る。そんな小さいけれど、じわじわとくる嫌がらせを、紗瑛はする。
でも、それでも。俺はうれしかったのかもしれない、楽しかったのかもしれない。初めは見てるだけで、話すことはおろか、目が合うこともなかった紗瑛と……笑い合っていることが。同じ時間を共有していることが、紗瑛が俺のことで笑ってくれていることが。
「風見くん? 大丈夫、体調悪い?」
そんな声に、思い出に浸っていた俺の思考は、強引に引き戻される。俺の目の前で、ひらひらと手を振って、心配そうに窺う彼女。見た目も性格の良いのかもしれない。紗瑛はこんなふうに心配しては、くれない。
「いや……大丈夫。それより…………その……」
「桧木さんのこと?」
俺の事を確認しながら、前を歩く彼女のあとを追う。紗瑛とは違うストレートな髪。紗瑛は少しウェーブがかかっていて、そのことを離すと『昔はもっとストレートだったのですが』と残念そうに言う。
階段を一段一段飛ぶように降りる彼女は、すべてを見透かしたように、訊きかえす。若干戸惑いながらもうなずくと、
「わたしは行きたくない、って言ってたよ」
そう言った。教えてくれた彼女に感謝すべきなのだろうけど、あまりの内容に感謝の言葉も、驚きの言葉も、悲しみの言葉も、口からは出なかった。
なんども言いかけた口の中には、いくつもの言葉が渦をまいて、消えていった。
続く……