コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: Sweet×Sweet ( No.41 )
日時: 2015/08/04 11:32
名前: 左右りと (ID: XaDmnmb4)
参照: http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode

(続き)


「…………え?」




 ただでさえ静かな車内に、沈黙が下りる。わたしも恒も、言葉を見つけられずにただ宙に視線を彷徨わす。その沈黙を破ったのは恒。でも、言おうとしてることなんてわかる。

「俺は……」

「いいの。恒の答えはわかってるよ」

「………………」

 恒は目を少し見開いて、そして私から顔を背けた。

「恒は…………三波さんが好きなんだよね……?」

「………………」

 沈黙。恒は図星だとすぐ黙る。そのだんまりが、暗に肯定を示していることを知らないで。ほんと馬鹿だよ。それで誤魔化せていると思っているんだから。

「香織……」

「なんにも言わないで。……言わないでいいから、聞いて」


 もう一度、恒の言葉を遮った。わたしの言葉に小さく恒が頷くのを見て、訥々とわたしは語りだす。


 *

 初めて恒と出逢ったのは、小学1年生の時。好きになったのは小学4年生の時。

 そう思い返すと、随分と前から好きだったんだなって笑っちゃう。だって、7年だよ? 7年間ずっと恒のこと好きだった。

 どこを好きになったか、なんて覚えていないけど。月並みな表現だけど、たぶん……全部が好きだった。
空気が読めないとことか、球技好きなのに全然上手じゃないとことか、馬鹿みたいなのに成績良いとことか、鈍感そうなのに辛いときはそばにいてくれるとことか、ココアが好きなの忘れないでいてくれるとことか、とにかく全部。

 ははっ……たしかに、悪口かも。でも、悪いとこも好きだったんだよ。気持ち悪いくらいに。

 でも、中学生になったら恒は遠い人になっちゃった。恒は明るくて気遣いできて頭もそこそこ良いから、すぐ人気者になっちゃって。同じクラスなのに、全然話せないし、話しかけてくれないし。

 でも…………離れても気持ちは変わらなかった。

 あっという間に中学校生活が過ぎて、受験生。恒はもとから成績良いから、頭いい学校に行くってわかってたから。わたし勉強頑張ったんだよ? 偏差値高いところ行くんだから、わたしのことも考えて、って言ってやりたかった。

 それで、ものすごーく勉強して恒と同じ高校に入れた。だからと言って、特に話すこともなかったけどね。それでもよかった。恒と同じ学校に通えているだけで。




 でもね、恒に好きな人ができたのに気づいたとき、わたしは心の底から嫌だって思った。恒に好きな人ができたことにじゃなくて、恒にわたしの気持ちを知ってもらえないまま、恒が誰かと付き合うのが嫌だったの。わたしの気持ちを…………知ってほしかった。今までそんなこと考えたことなかったのに。
 
 だから、恒が一人で帰ることになる委員会の今日に告白しよう、て決めたの。

 わたしのことを忘れていてもいいから、わたしの気持ちだけ聞いてもらえればいいって思った。……ううん、思ってたの。




 わたしはそこで、口を閉じた。恒は静かにわたしの隣で次の言葉を待っている。

 あぁ……もう。そこで笑い飛ばしてくれれば、わたしとしては楽なのに。変なところで真面目なんだから。

「でも、やっぱり駄目ね。わたし……恒にフラれるのわかっていたはずなのに………………やっぱり、辛いっ……!」


 頬を暖かいものが伝って、制服に落ちる。

 家で散々泣いたのに。だから絶対、恒の前では泣かないって決めてたのに。そんなことしたら、恒は責任を感じちゃうじゃない。恒の足かせにはなりたくないのに。

 必死に涙を止めようとするのに、全然止まってくれない。こんなの予定になかったから、どうしていいかわからなくなる。パニック状態、どうしたらいいの。
止まって、止まって、止まってよ……。

 沈黙の隙間に、わたしの嗚咽が混じる。

「……ぅう…………」

「……その、香織? なんて言っていいかわからないんだけど。……ありがとうな」

「……うっ……うぇ…………ば、馬鹿ッ!! な、で……そんなこと、言うの。馬鹿……馬鹿ぁ!!」

「な、馬鹿って……」


 本当に大馬鹿。馬鹿、間抜け、でべそ。大好きだ。


「……ははっ……あはははっ!! もう、恒の所為だからね。悲しかったはずなのに……笑っちゃうじゃない!」

「なに逆切れてんだよっ!」

「だって恒が……!!」


 恒をふりかえると、視線が合う。数秒交わって、どちらからともなく、笑いだす。

「「アハハハハ!!」」

 “何が面白い”なんてわからないけど、笑った。さっきまで悲しくて辛かったのに、今は大笑い。本当に、恒と居ると調子が狂う。

 少しして笑いがおさまると、わたしは笑みを浮かべて言う。

「ありがとう、恒。わたし恒の好きになれてよかったって思う」

「……うん、こちらこそ。俺なんかのこと、好きになってくれてありがとう」


 ……ったく、何回泣かせるつもりだ。だけど、大丈夫。もう泣かない。

「もっと感謝して」

「…………はっ!?」

「あんたみたいなの好きになってやったんだから、感謝してよ」

「なんだよ、それ!! ってか、あんたみたいなのって……」

 よかった……わたしたちは、あの頃に戻れるんだね。離れていて、何年もほとんど話さなくても。それだけで、幸せだ。


「そうだ、お礼に肩貸して。なんか眠くなっちゃった……」

 そう言って、恒の肩へ寄りかかる。制服の向こうに恒の体温を感じる。暖かい。
 
「お礼ってそんなんでいいのか?」

「うん、これだけで……十分。だから…………もうちょっと、待って——」

 ——わたしの気持ちが、消えるまで。


*


あれから数日がたったある日。

「おーい、香織!!」

 友達と、お昼を食べようと立ち上がると、馬鹿うるさい声がわたしを呼んだ。教室に響くその声の主は、わたしへと駆け寄ってくる。なんだ、なんだ。

「一緒に昼飯食べようぜ!」

「はっ?」


 あまりにも突拍子のない言葉に、目が点になる。というか、後ろに誰かいるの?

「……あ、あのっ! ご一緒してもいいですか?」

 ぴょこんと出てきたのは、とても可愛らしい女の子だった。あぁ……そういうこと。

「つまり、わたしを針のむしろにしたいってこと?」

 どこか見たことのある顔だと、思ったら……三波さんじゃない。何がどうして、出来立てほやほやのカップルに挟まれて楽しくお昼、なんてできるのだろう。そんなの、わたしのこと殺しに来ているの?

「……え? どういう意味?」

「…………馬鹿なの? まぁ、どうでもいいけど。お二人で食べてきなよ、わたしはお邪魔でしょ?」

「そんなことないですっ!!」


「そう? でも、残念ながらわたしにリア充の間でお昼を食べて幸せを感じる性癖はないんだ、だから。お二人で、どうぞ」

「そうか。残念だな……」

 よしよし、それでいいんだよ。わたしは、あんたの幼馴染なんだから。このくらいの距離で、いいの。

「……じゃあ、また明日!」

「なんでそうなんのよっ!! ……もう、速く行きなよ、お昼休み終わっちゃうよ」

 恒の背中を押して、どっか行くように促す。恒は渋々といった様子で、三波さんを連れて教室を出て行った。わたしはそれを笑顔で見送る。

 確かにフラれてしまったけれど、恒が幸せならそれだけでいいかな、って思うんだ。

—————————————————————————————————————————End.

【ヤブデマリ もうちょっと待って】

いかがでしたでしょうか?
S×S初の悲恋系ですが、わたしとっても満足しています(*^_^*)
最後の方がイメージしていたものとは、少し変わってしまいましたが、まぁ……これでいいか、と(笑)

恒くんが三波さんにフラれれば、わたしとしてはもっと満足なんですけどね……
(リア充爆発しろ!!!)

リア充が末永く爆発することを祈って———