コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: Sweet×Sweet ( No.48 )
- 日時: 2015/12/28 21:50
- 名前: 左右りと (ID: dB4i1UE/)
【いつだって答えは、そこにあった】
「僕を文芸部に入れたのは、廃部を逃れるためですか?」
「どうだろうね?」
なんて言って、くすっと笑う。
彼女の口が蠱惑的な三日月を描く。伏せられた視線は交わることなく、視線は一方通行。彼女が僕を見ることはあまりない。
「教えてください、先ぱい」
「えぇ……どうしよっかな?」
簡素な部室を夕方の橙の日差しが照らす。
「どうしよっかな、じゃないです。いつまでそうやって焦らすんですか」
すこしイラついた様子で、僕は机の上の手を握りしめる。
彼女はちらとこっちを見て、すぐ手元の本に目をおとす。初めてあったときはそんなことに気づけないくらい、彼女を見るのが気恥ずかしかった。だって彼女は、あまりにも魅力的過ぎた。
彼女と出逢ったのは、入学式の次の日。広い校舎で迷っていたところを助けてくれたのが彼女だ。人を惹きつける魅力を持ちながら、人を寄せ付けない孤高の華のような人だった。そんな彼女に誘われ、文芸部に入部した。現在部員2名。
「だってきみが困ってる顔可愛いんだもん……」
「な……ッ」
可愛らしい顔をして、時折見せる狡猾そうな目にどきりと胸を揺らされる。彼女はとてもずるい女性だ。
「そんなこと言われたって、男は喜びませんよ」
「……っふふ、そうかもね。でも、きみはうれしいでしょう?」
「うれしくないですっ」
拗ねたようにつぶやくと、また笑われる。くすくす、彼女は口元を少し隠して下を向いて笑う。前を向いて笑ってくれれば、良いのに。笑顔を僕に向けてくれればいいのに。
「ごめんね、怒らないで?」
そっぽを向いた僕の右の頬に、彼女の視線がぶつかる。僕の視界の端で、彼女の黒髪が机に垂れる。そうやって小首を傾げて、無意識な可愛さを振りまく。
「…………」
「もう……困っちゃうなぁ」
「…………」
「そんなに怒らないで」
心底困ったような声に、思わず振り向きそうになる。でも、それじゃダメだ。彼女は子どもを相手するように、僕と話す。そんなの嫌だ。ここで僕が折れたら、子どものままだ。
「うーん、どうしよ。ねぇ、どうしたら機嫌直してくれる? あ、アメあるよ。食べる?」
ほら、黙っているとこの通りだ。アメをもらって喜ぶ高校生なんてどこにいるだろうか。
「はーあ……」
「…………(なんで僕が悪いみたいになってるんだ?)」
2人の間に沈黙が横たわる。彼女はぐてっと机に伏せた。
いつの間にか、窓の向こうが夕闇に飲まれつつある。そろそろ帰ろうかな。なんてぼんやり考えていると、彼女の細い吐息が聞こえた。
「優日くん、わたしはね……優日くんにそばにいて欲しいから、文芸部に誘ったんだよ」
「……ッ!!」
勢い余って椅子から落ちそうになるのを、どうにか踏みとどまる。
黒い瞳が真っ直ぐに僕を見つめている。胸がどきりと鳴って、息をするのも忘れそうだ。
「やっと、こっち向いた」
くすくす。今度は口元を隠さずにっこり、無邪気な笑みをこぼした彼女。その笑顔は、目の前にいる僕にだけ向けられたもので——。
「ふふっ……わかりやすいね、"きみ"は」
「あっ……名前!!」
「だめだよ。そんなに乱用したら、効果がなくなっちゃうからね」
そう言って立ち上がると、本をリュックにしまって立ち上がる。
「さ! 帰ろっか」
「……はい」
残念、無念。
結局子ども扱いは変わらないし、もう帰らなくてはいけない。僕もしぶしぶカバンを持って立ち上がる。彼女は既にドアの向こうで、待っている。
「ほら、鍵閉めちゃうぞー」
「わかってます」
「もう、またそんなことで怒んないで」
彼女はよく笑う。今も楽しそうな、笑い声が部室棟の静かな廊下に響く。
僕にとっては、そんなこと、ではないというのに。彼女は余裕の表情だ。たった一つ歳が違うだけなのに。
「じゃ、帰ろうか……」
鍵を閉め終わった彼女が、そうつぶやいて歩き出す。
何も言わないで後ろについて歩く。彼女のリュックを背負った背中を見つめて、問い掛ける。
——僕は、あなたにとってなんですか?
答えは今日も、はぐらかされてしまった。
たった一つ年齢が違うと、無駄な焦燥感が湧き上がってなかなか消えない。どうしても、確かな答えが欲しい。そう思うのも、僕がまだ子どもだからなのだろうか。
「そんな心配しなくても、いいのに」
ぼそり、と先ぱいがつぶやくのが遠くに聞こえた気がする。え? といつの間にか伏せていた顔を上げると、彼女の背中が少し遠くにあった。
そしてさっきとは違うその背中に、目を見張る。
真っ白なリュックに、いつもは彼女の綺麗な髪がかぶさっているが、いまはそれがなくなっている。
リュックの、全面——その上部。いつもは髪に隠れて見えない、そこには——
———Please,don't stop to love me.