コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: ハツコイ【オリキャラ募集中】 ( No.114 )
- 日時: 2016/08/13 07:06
- 名前: てるてる522 (ID: VNP3BWQA)
〜夏海サイド〜
これは一種の闘いかもしれない。
──しいていうなら、ショパンとの闘い。
一つを丁寧に弾いていく……。
弾いている音を聴く。
流さないで全て、大切に弾く。
いつも意識して練習していた結果を全部出すのがコンクール。
……そして、全部出てしまうのがコンクールだ。
「夏海、そろそろ家を出て会場へ向かうぞ」
お父さんの声が玄関から聞こえる──。
車に乗り込んで、シートベルトをしっかり締める。
「随分と練習していたみたいね。 緊張してるの?」
お母さんの声で自分がそうとう緊張している事を実感した。
普段お母さんからこんなことは言われない。
──そっか。お母さんとお父さんにはまだ言ってなかったか。
私ね、初めて友達と呼べる人が出来たんだ……。友達がいるとどんなにいい事があるか教えてくれた子が居るの。
このタイミングじゃ駄目だ、泣いてしまうかもしれない。
もう時期別れるから……。
もう会えないのかな。
車のスピードが上がっていくに連れ、私の緊張も重なって高まっていく。
「着いたぞー」
大っき!
ホールを見ての、第1一声はそれだった。
まだ少し時間に余裕がある。
──3人は着いたかな……。
「あっ、夏海ー!!」
美佳が始めに見つけて、3人とも駆け寄ってきた。
「今日は頑張ってね! 客席からだけど応援してる!」
「緊張してるの? 自分らしく頑張れればそれでいいんだよ!」
「夏海ー、ファイトだよ」
それぞれのそれぞれらしい、声援とともに──。
「あら……もしかしてお友達??」
お母さんが私に聞いてくる。お父さんも同じく疑問に思っているようだ。
「ま……まぁ──。」
「もう、今日来るって行ってくれれば良かったのにー。あ、いつも夏海と仲良くしてくれてありがとうね」
「いえいえ! こちらこそ、お世話になってます」
瑞希がしっかりとした受け答えをする。
「……あ、母さん。」
お父さんが、急にお母さんを呼んだ。
──ハッとした様子でお母さんは、
「そろそろ時間になってしまうから、また後ででも良いかしら? 終わった後も会えるといいわね」
「じゃあ、また後で」
「うん! 頑張ってー」
じゃあ楽屋に向かうかな?
ドアを開けると、もう沢山人がいた。
ひたすら楽譜を読み続ける人。
一つ一つ、丁寧に確認している人。
課題曲を聴く人。
やり方はそれぞれだが、どの人も一生懸命さが伝わってくる。
空いている席を見つけて、私も曲のチェックに取り掛かった。
曲を聴きながら、先生に注意された事を楽譜に書く。
「それでは、第48回 中学生の部 関西ピアノコンクールを始めます
。」
アナウンスの声で、コンクールのスタート幕が切って下ろされた。
「1番 佐々木舞子さん」
番号と名前が呼ばれて、出てくる。
私は21番だから、まだ少し時間がある。
楽屋に戻り、再び確認を始める。
どのくらい時間が経ったんだろう。
30分くらいだったのに、すごい長く感じた。
我に返って、周りを見回すと他の人も集中した顔つきでいた。
「21番の人は、舞台裏で準備をお願いします。」
私だ……。あと少しで出番だ。
落ち着いていた鼓動が再び、早くなる。
舞台裏に入ると、19番の人が弾き終えて戻ってくるところだった。
「20番 曽我彩菜さん」
次は私の番。 分かっていてもやっぱり緊張する。
目を閉じる……。
緊張が収まらないときはこうしたらいいって教えてもらった事がある。
深く深呼吸をする。
……
あ、拍手の音。
「21番 村田夏海さん」
一歩一歩をかみ締めるように踏み出して歩いていく。
ピアノの前に座って、鍵盤の上に軽く手を乗せる。
集中が、一番になった時に弾き始めた。
『別れの曲』
私も今日で百合たちと別れる……。
初めての体験を沢山やった日々。
今考えればあっという間だった日々──。
楽しい時間はあっという間に過ぎていくっていうけれど早すぎるよ………。
なめらかな旋律が耳の中を通り抜けて行くような──。
またね、百合。忘れないでね、瑞希……。ありがとう、美佳。また会おうね、優菜。
たくさんの思い出を胸に、私はここの町から居なくなる。
本当の本当に短かった。
でも短い中でもこれだけの思い出の数……もっと、一緒に居たかったな。
もっと、ずっと同じ学校を通いたかった……。
頬を涙がつたった。
視界がぼやける──見えない、分からない。
感覚で弾くしかないんだ。
最後の音を弾いて、立ち上がる。
お辞儀をして舞台袖まで歩く──。
拍手は耳に入ってこなかった。
楽しかった日々は幕を閉じた。
またどこかで、会える日を──。
【〜第3話〜 初めての気持ち 終わり。】
次回から4話です!
byてるてる522