コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: ハツコイ【コメント、アドバイス募集!】 ( No.734 )
日時: 2016/12/08 19:34
名前: てるてる522 ◆9dE6w2yW3o (ID: VNP3BWQA)
参照: http://From iPad@

〜夏海サイド〜

「なにかあるなら俺は聞くし」
と言った雄太の顔は、いつもよりも何倍もなんていうか……カッコよく見えた。

……いつもよりカッコいいよ!なんて普通に──ナチュラルに伝えられたらいいのに。
もちろんそんなことは出来るはずないから、心に留めておこう。

もうこのまま、どこか高いところから飛び降りてしまいたい気分に浸っていた私の心をするすると解いていく雄太。

私は、「ありがとう、やっぱり安心できるな」と目から涙をこぼしながら言った。
雄太は私の涙を見て、まだ慌てていたみたいだけど、「これは嬉し涙」と伝えたら、パァっと笑った──。


カッコいいとこも、こういう無邪気なところも本当に大好き。

思っているだけで、頬が紅潮するのを感じる。


──暫くお互い見つめていると、「雄太、こんなところにいたの」という女の人の声が聞こえた。
「あ、やべ」と雄太がうろたえる。

もしかして、と思っていた予想は正解で……雄太のお爺さんとお婆さんだった。
ちょっとだけ似てるような……でもちょっと雄太の方が、目尻が上がってるかも。

「あら、これは可愛らしいお嬢さん」
なんだか落ち着く声で、雄太のお婆さんは言った。

「こんにちは、なんだかすみません」
私は軽く頭を下げた。

「いや、気にしないでいい。お前も家族か誰かの墓参りなのか?」
「ちょっとあなた! 初対面の方にいきなりお前呼ばわりなんて、しかももっとデリカシーを持ってくださいよ」

お爺さんとお婆さんのやり取りが始まってしまったので、慌てて「大丈夫です」と付け加えて、「両親の」と伝えた。

「1人で? しっかりしてるのね」
感心……したようにそう言うお婆さん。

「お前の両親もここら辺の人なのか? もしかしたら、雄太の母さんの同級生だったりしてな」
ちょっと今までとは想像できなかった、豪快な笑い方でお爺さんは笑った。

……もしかしたら、私の両親と雄太のお母さんは同級生だったかもしれない……。

──全く思いつきもしなかった考え。だけど、ここで会うって、もしかして……ってことも考えられるよね。

私は、
「村田四郎、村田夏子……という名前を聞いたことはありませんか? 私の両親なのですが」

と訪ねた。

──返事は……。

【続く】

byてるてる522

Re: ハツコイ【コメント、アドバイス募集!】 ( No.735 )
日時: 2016/12/12 17:42
名前: てるてる522 ◆9dE6w2yW3o (ID: VNP3BWQA)
参照: http://From iPad@

〜夏海サイド〜

「村田四郎って、あの世界的に有名だった指揮者かい?」
雄太のお婆さんが目を見開いた。
……かなり前の話なのに、覚えていてくれた人がいたんだね──お父さん。

「はい、私の父は指揮者でした。──優しくて、でも音楽のことになると途端に別人級に変わって熱心になって……。私の母はピアニストではないのですが、音大卒で音楽教師を……」
「音楽教師──?」
お爺さんが食いついた……何かを思い出したような表情だ。

「確か、雄太の母さんがお前ら2人より少し幼かった頃に……」
お爺さんは、私と雄太を見た。

「同じクラスに凄いピアノが上手くて、音楽教師になろうとしている子がいるって聞いたことがあったな」
「えぇ、そんなこともありましたね」
懐かしい過去を思い出して、嬉しそうに目を細める2人の言葉に私も雄太も驚きを隠せない。

「お前はこれから平気か?」
最初にお前呼ばわりされた時は、結構驚いたけれどそれももうすっかり慣れた。

「大丈夫です」
「じゃあ、ちょっとアルバムとか探してみましょうか。雄太にも母さんの昔の写真なんて見せたことなかったからな」

私と雄太は顔を見合わせた。

きっと、私達が今思っていることは同じ。




……


──きっと、これをきっかけに私達はもっと過去を知ることになる。
そして、それは絶対これからに繋がる発見になる──。


*


車の中……私は、後ろの席で雄太と並んで座っている。
……少しだけ、恥ずかしくて──それでも少しだけ手を伸ばせばすぐに触れることの出来る距離。

その距離をあけてお互いに座っている。


──私がタイミングを伺っている時はきっと雄太も同じだ。
だって……──ほら、今目が合った。


ずっと見つめてるのも、緊張する。けど、逸らすのももったいなくて──。


もうお互いの気持ちに気づいてからかなり経つのに……私達は相変わらず少しだけ距離がある、そんな関係です。


「あ、海」
「海だ」

声が重なる。

道路の両脇は海に挟まれていて、違うところから同じものを見て……たくさんの「偶然」が重なる。


──そっと……でも、少しだけお互い距離を縮めて座った。

【続く】

最後のところ、ちょっとgdgdしてます(((;°▽°))

byてるてる522

Re: ハツコイ【コメント、アドバイス募集!】 ( No.736 )
日時: 2016/12/17 17:04
名前: てるてる522 ◆9dE6w2yW3o (ID: VNP3BWQA)
参照: http://From iPad@

〜夏海サイド〜

「これはあんたの母さんが幼稚園の入園式の時だな」
雄太の家に通されて、約10分後──奥の部屋からダンボールに入ったアルバムをお婆さんとお爺さんが持ってきて……ペラペラめくると、雄太のお母さんの小さい時の写真があった。

「おぉー小さい」
雄太は、言葉以上に驚いていた。
……私はある意味別のところで驚いていた。

雄太のお母さんの横にいるのは、きっと雄太のお婆さんとお爺さんだと思うけど、お爺さんの方が今の雄太にそっくりで……。

──もしかしたら、雄太も将来はこんな感じになるのかな……。
なんて。何思ってんだろう私。

ブワッと顔が染まり、俯いたのとほぼ同時に「これ」と雄太が言った。
いつの間にか雄太のお母さんは幼稚園入学から中学校の修学旅行の写真に進んでいた。

「母さんの右隣のもう1個右。夏海のお母さんじゃないか?」
「えっ」

アルバムをじーっと見る。

中学校の時、私はずーっと暗かったからほとんど笑顔ではないけどお母さんはこの時から笑顔だな。──髪型は同じだ。

……私は懐かしい二つ結びを思い出した。

「なんかやっぱ夏海に似てるな」
雄太も同じことを思ったらしく、「髪型とか」と言って笑った。


「お前の母親も、お前くらいの年がちゃんとあったってことだな」
「この写真、持っていく?」
お爺さんとお婆さんが私に言う。

「いいんですか?」
「えぇ、持っていって!」
うふふ、とアルバムからお婆さんは写真を抜きとった。

とりあえず、カバンに入っていた手帳に写真を挟んだ。


**

「なんか色々とありがとうございました」
私は、結局家まで送って貰った。

「いいえー、またいつでもいらしてね。雄太のこともよろしくね」
「えっ!?」
「んっ!?」
お婆さんの言葉に私と雄太は戸惑って固まる──ぎこちなく顔を合わせる。

「そりゃ、お前……雄太が女と親しくしてれば……もしかして、とは思うだろう」
──信じられないほどの、いたずらっぽい笑顔だ。
雄太も「信じられない」といった表情を浮かべている。

……でもこれで、またちょっと。
1mmでも1cmでも縮まったんじゃないかなって思う。


特にこれまで気にしてなかったけれど、気兼ねなく……──ね。

【続く】

byてるてる522

Re: ハツコイ【コメント、アドバイス募集!】 ( No.737 )
日時: 2016/12/20 20:46
名前: てるてる522 ◆9dE6w2yW3o (ID: VNP3BWQA)
参照: http://From iPad@

〜夏海サイド〜

家に入って、電気をつけて私は上着も脱がずに鞄からお母さんの学生時代の写真を取り出した。

「若いなぁ……」
あんまりお母さんやお父さんと昔の話をした記憶がない私には、やはりこの写真は新鮮なものに感じられた。

写真から顔を上げて、周りを見回してもいるのは私だけ──どこから人の声も聞こえるはずはなく、ただただ時計の秒針の音だけが刻まれていく。

その音は、私は孤独だという事を強く意識させた。

「ピアノ弾こう」
行動をいざ口に出すと、てきぱき動くことができる。
これは本当だと思う……。

私は、簡単な曲を弾こうとブルグミュラーの楽譜を取り出した。
小学生の頃に弾いた楽譜だ。

私の目に止まった曲があった──別れ、という曲だ。

目あすのテンポの横に、「Agitato」と書かれている──これは怒ったように、という意味を表す。

今の私には怒りの気持ちはないけれど、怒りを繊細に表す細かい右手の音がぴったり当てはまると思う。

最初の一段は、ゆっくりとただただ暗い音が静かに聞こえるような感じで……──。
そこから徐々にテンポが上がって、細かい右手の音が始まる。

細かい右手の音の反対の左の太い音──2つの音が醸し出す音が、何とも言えず悲しくてほのかに感じることの出来る怒りの気持ちがあるのかな、と私は弾きながら考えた。

真ん中に挟まれたハ長調の音も、怒りが少し晴れていくような気持ちを表しているのだろうか。


──……最後は、力強く終わる。

たった二ページの曲だけど、私が弾く時に考えることはたくさんある。
この曲は、私が小学生の時にずっと苦手だった短調の曲のかっこよさを教えてくれるきっかけの曲。


別れという題名だけど、私からすれば短調との「出会い」の曲だ。


──……────

【続く】

別れ、私もすごく好きな曲です!
もしよかったら、ネットで「別れ ブルグミュラー」で調べてみて下さい
((

byてるてる522

Re: ハツコイ【コメント、アドバイス募集!】 ( No.738 )
日時: 2016/12/23 23:28
名前: てるてる522 ◆9dE6w2yW3o (ID: VNP3BWQA)
参照: http://From iPad@

〜夏海サイド〜

『また明日学校でー』
このメッセージが携帯に反映される。
……雄太からだ。

いつもと変わらないやりとりをして、いつも通りに遅くなったらの切り上げ方。
でも今の私は、雄太がどんな気持ちなのかなとか……どんな顔なのかなとか──そういうことばっかり、雄太のことばかりを考えている。

『うん、おやすみー』
そう言って、既読がつくのを待ってから画面を閉じた。


携帯を置いて、布団をかける。──それと同時に電気を消した。
あたりが見えなくなる──ぎゅっと目を閉じた……。

ただそっと、心の中で「おやすみ」を呟いた。
聞こえるはずはない。けど聞こえそうな気持ちになる。


次第に私は、いつも同じように眠りについた。




**


〜雄太サイド〜

『また明日学校でー』というメッセージを夏海に送った。
既読がついて『うん、おやすみー』が返ってくる。

──確認してから、俺はトーク画面を閉じた。

もう爺ちゃんと婆ちゃんは寝ていて、起きているのは俺だけだ。
……今日の帰り際を思い出すと照れくさい──でも、ちょっとだけ俺のことを知ってもらった。

今更こんなことを思うのがおかしいのは分かってる……。

「もう寝るか」
誰がいるわけでもないが、そう言葉に出すと、本当に眠くなってきた。


──……眠くなった時に寝れるのが一番だ──。


俺が今そんなことを思っている時、夏海も同じようになにか考えているんだろうか。──


【続く】
byてるてる522

Re: ハツコイ【コメント、アドバイス募集!】 ( No.739 )
日時: 2016/12/25 22:51
名前: てるてる522 ◆9dE6w2yW3o (ID: VNP3BWQA)
参照: http://From iPad@

〜夏海サイド〜

学校が終わって私はそのままピアノの教室へ行くことにした。


──……とある漫画でも、主人公がベートーヴェンの悲愴を弾くシーンがあったように記憶する──。
あんな風に私も無我夢中で自分の演奏が出来たらいいのになって思って、その漫画に出会ったのがこの悲愴を初めて弾いた時だった。
自由奔放だったけど本当にピアノが好きな気持ちがよく分かる……そんな主人公が私は大好きだった。

そんなことを思っている間にあっという間に教室の最寄駅まで着いた。

しっかり悲愴の楽譜は鞄に入っている。──もう私は決めた。


*

「いらっしゃい夏海……あら」
先生は「なんだか顔つき変わった」──と来て早々、私の気持ちを勘づいている様子だ。

「お邪魔します」
そう言って私は入ってそのままレッスン室へと向かった。

「それで、結局どうすることにしたの? 私のことは気にしないで夏海の素直な気持ちを聞かせて?」
躊躇うこともなく、でも急かすこともなく……目の前にいる先生はいつも通り踏み込みすぎない距離感で私に尋ねてくる。

「私は色々ありました。先生に悲愴の楽譜を渡されて正直、弾きたくないっていう気持ちがあったけど……変わりました。過去の私を打ち消すために、自分の恐怖を潰していくために、まずはこの曲を弾こうと思っています」

言葉が上手くまとめられずに、長くなってしまった。

「そっか、それが聞けてよかった。きーっと夏海はそういうと思って信じててよかった」
先生は嬉しそうだった。

自分のことを今は多分、一番親目線で見てくれている先生が私は大好きだった。
時には厳しいことを言ってくれる。
時には私に大きい決断を委ねる。
時には遠くへ少し突き放してただ見守る。

──でもそれは全部いつも私のためだ。


いつだったか、先生は
「夏海のためにやること、すべて心地いいものではないのよ」
と苦笑しながら言っていた。

言われた頃は聞き流していた言葉だったけど今更になって、その言葉が凄く強い意味として伝わってくる。
全部に染み渡るようなそんな──感覚で。


本当に出会いは大切。

……先生との出会い、短調との出会い、百合や瑞希や美佳との出会い、そして雄太との出会い。
でも私が強く感じるのは、ピアノとの出会いだ。


友達がいなかった時に私を明るい世界へと導いてくれたのはピアノ。
そこから何もかも始まった。

スタート地点がピアノとの出会い、それだったらゴールはどこだろう──。

「どこ?」って先生に聞こうと顔を向けたら、目が合って微笑まれた。
なんでも見通されている気がする。──「それは自分で行かないと分からない。私にも決めることはできないもの」って……。


「じゃあ、頑張ります」
「えぇ、また次回ね!」
教室のドアを開けると、少し雨が降っていた。
鞄の奥にしまわれた折りたたみ傘を取り出して、私は駅まで向かった──。

【続く】

新年から新小説を始めようと検討しています!
……まだあまり構成などが練れていないのですが……(((;°▽°))

byてるてる522