コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: RAINBOW【合作短編集 ( No.25 )
日時: 2014/12/03 22:30
名前: *紗悠* (ID: lmEZUI7z)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1/index.cgi?mode

【GRASS】

   ◇   ◇   ◇

「あれ?彼方メガネ変えた?」

ここは部室。正式名称将棋部部室。
通称 メガネ部

「あ、おう」
銀縁のメガネの彼は手みじかに答える。
「あいつらこねえな」
「だね〜」
もう一人の赤縁の片三つ編みの少女は髪を揺らしながら後ろのドアを向く。

「一局やるか」
「そだね。暇だし」
二人とも対して表情を変えない。
メガネが結露で少し曇りあっている。
表情がないのではなく

お互い隠していたりするだけかもしれない

……15分後

「……3三金」
「へっ?……ど、同銀?」
「4二龍、王手」
淡々と流れ良く指す男子。
反し慌ただしく受ける女子。

男子が完全に優勢だ。

「お、王手!?……」
「おう」
メガネを外し拭く彼。
少女は長考に入った。

「3二銀合」
「3一銀。はい詰み」

少女の王はもう包囲されてしまい、どうもがこうと殺されてしまう。

これが詰み

「ままま、参りました……」
「幸さぁ、俺に勝ったことあるか?」
勝者の男子は呆れながらいう。
「ない……」
これが相原彼方と佐原幸のとある一局。

Re: RAINBOW【合作短編集 ( No.26 )
日時: 2014/12/04 23:18
名前: *紗悠* (ID: lmEZUI7z)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1/index.cgi?mode

銀縁の彼は相原彼方。
成績優秀な将棋部部長。

赤縁の彼女は佐原幸。
ゆるふわな髪が特徴的な将棋部員。

将棋部は現在部員四名。
彼方と幸、そして

「よっ!おふたりさん!ちと遅れた!」
元気な声が部室に響く。
少し茶色い髪と緑縁眼鏡が夕陽に照る。

緑縁の彼は田崎正喜。
クラスのムードメーカー。
何気に彼方の親友である

「正喜うるさいっ」
田崎が後ろからパシッと叩かれる。

彼の後ろには切れ目の黒縁の女子が。
彼女の名は水無月綾。
将棋部副部長でありクラスの評議委員でもある。

似合う言葉は。
彼方 精神統一。
幸  優柔不断
正喜 天真爛漫
綾  才色兼備

彼ら四人が伝統の欠片もない将棋部の部員であった。

そう、これは回想
今は違う。
ひっくり返された盤の様にグチャグチャになっているのが

今の彼らである。

Re: RAINBOW【合作短編集 ( No.27 )
日時: 2014/12/06 23:08
名前: *紗悠* (ID: lmEZUI7z)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1/index.cgi?mode

「6二飛成」

パチッと気持ち良い木の駒の音が部室に響く。

「7二金相」

また響く。
一音乱れぬ同じ音。

「7四桂……」

また響く。
リピートのようにまた。

そこで彼の手が止まった。

どうもがこうが王は敵駒に取られてしまう。
詰みの状態。

これを揃えた盤を彼は悲しく見据える。
全てが自分に重なってしまうからだ。
動いてしまえば殺され
動かざるならも殺される。

終わりが決まった局面。
人生にもこんなのが来るのかと彼は自分を嘲笑した。
……冬の日差しに銀縁のフレームが瞬く。
彼、相原彼方はただ一人、部室にこもり駒を打っている。

相手の居ない一人将棋。
勝筋も何もかも脳に構築されている。
このまま駒の中に埋もれたい。
誰にも触れられない木の静かさに埋もれたい。
誰も居ない部室に自分を張り付けてしまいたい。

磔にしてしまいたい。

彼は自分を自分で裁いていた。

Re: RAINBOW【合作短編集 ( No.28 )
日時: 2014/12/08 23:43
名前: *紗悠* (ID: lmEZUI7z)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1/index.cgi?mode

「彼方」

彼の後方から透き通るような声が。
振り向くとそこには赤縁の少女。
幸だ。
ふわふわしていた髪も今はストレートになっている。
彼女は今までで一番彼の近くにいた存在だ。
暗き過去を背負い生きる彼を支えたのは紛れもなく彼女だ。

「幸……」
いつもの豊かな目とは違いどこか悲しそうな。
深海に落としたように黒く目が染まっていた。
そして彼女が近づいてくる。
一歩一歩の音が鼓膜を細かく揺らす。

そして

彼の目の前に着いたその刹那。
ヒュッ

髪が顔を撫でた。
そして彼と彼女の唇の距離が零になった。

この口づけは何を示唆するのか。
彼への償いか戒めか。
何の意味を持とうとも彼の心に深く刻まれる。
口づけはたった数秒。
その数秒で彼の脳内に微かな色が付いた。

彼女の存在は偉大なのかどうか。
分からないが天使のように柔らかい。

「彼方」
彼女は彼の名を呼び悲しく。
また幸せそうに微笑んだ。

Re: RAINBOW【合作短編集 ( No.29 )
日時: 2014/12/17 22:26
名前: *紗悠* (ID: MIWWdNDg)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1/index.cgi?mode



  ◇  ◇  ◇

俺のしたことは罪なのか?

俺は裁かれる罪人なのか?

  ◇  ◇  ◇

頭をかき混ぜていた渦は彼女の口付けで散っていった。

「俺……」
何かを言いかけると幸の人差し指が口に触れる。
唇を垂直に撫で俺が言うのを抑えさせている。

「何も言わないで……」
幸の眼鏡の奥の瞳が薄く曇る。
少し俯いている彼女は何を想っているのか。

「私は、彼方のことが好き」

次に放たれたのは突然の告白だった。
「好きな人だから、壊れて欲しくない」
幸の声が微かに震える。
「今の彼方は自分の世界で迷ってるだけで
 踏み出そうとしてない」
俺の胸に幸の言葉一つ一つが刺さる。
「もう、傷つき続けるのはやめて
 踏み出して、進んで、抜け出して」

そして


「今は歩みたいに一歩一歩でも良い
 地道でも良いから自分と向き合おう?
 踏み出さない限り何も掴めないよ?」

すきま風に彼女の髪が揺れる。
彼女をはっきりと瞳の奥に焼き付かせるかのように。

俺の足は前にしか進めない歩のように

小さな一歩を踏み出した。

EnD……?