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Re: RAINBOW【合作短編集】 ( No.31 )
日時: 2014/12/26 09:19
名前: 夕陽 (ID: jP/CIWxs)

彼女の命or僕の命

 僕は今屋上に続く階段を登っていた。
 とうとう扉まで登りきり目の前にある扉を開ける。

 ギギギと少し不安に思う音とともに扉は開かれた。

 運動場ではまだ運動部が練習している。
 運動部の声と吹奏楽部の演奏がアンサンブルを奏でている。

 やっぱり屋上はいいな、そう思いつつ僕は端っこに腰掛ける。

 誰もいない屋上。
 たくさんの人がいる運動場。

 正反対だ。
 フェンスに寄りかかるようにして本を取り出す。
 まだ昨日買ったばかりの綺麗な表紙。
 途中に挟まっている栞を取り出して僕は読み始めた。

 しかし数分後、ギギギという耳慣れした音が僕の耳に届いた。
 僕は瞬時に文化祭のための小物の後ろに隠れた。
 別に悪いことをしているわけではないけどなんか隠れてしまった。

 現れたのは女の子。
 上靴の色を見る限り僕と同じ2年生なんだろう。
 黒くストレートな髪の毛がとても綺麗だ。
 彼女は誰もいないことを確認するとフェンスに近寄り下を見る。

 え?

 そのあとの行動に僕は驚いた。
 フェンスに手をかけ乗り越えようとしたのだ。
 こんなことするなんて、彼女はきっと……!

 ここでダメだよ、と言えたらどんなに良かっただろう?
 しかし僕は固まってしまって何も言えなかった。
 ただ、ひとつだけ救いだったのは僕が立つときバランスを崩して文化祭のために作られた小物が崩れて僕の存在を彼女に知らすことができたことだ。
 実際この音に驚いて彼女は乗り越えようとする手を止めた。

 呆然としている彼女に僕は固まっている体を無理やり動かしてこっち側に引き寄せた。

「なんでそんなことするの?」
「なんでそんなこと聞くの?」

 怒っているというより悲しんでいるという言葉が似合うような口調だった。
 彼女はこっちをまっすぐに見る。
 その目が僕のいとこにそっくりだった。

「だって、ここから……」

 飛び降りようとしたでしょ? という言葉を飲み込む。
 それを肯定されるのが怖かったからだ。
 2年前、いとこにも言ったセリフ。
 あの時は中学校の屋上だったけど、シチュエーションはすごく似ている。

「飛び降りようとしたよ? でもあなたには関係ないでしょ」

 しかし彼女はさらりと真実を言う。

「関係あるよ! だって同じ学校の生徒じゃん!」

 僕は反論するが彼女はもう飽きたというようにまたフェンスに向かう。
 今度こそ彼女は本当に飛び降りるだろう。

「そういう同情されても嬉しくないよ……」

 今、名前の知らない彼女が自らの命を絶とうとしている。
 そして僕はそれを止める余裕さえない。

——お願いだから、そのフェンス乗り越えないで……。

 思いは言葉にしなければ届かない。

「じゃあね」

 少し震えた声で僕に言葉を残し彼女は、

——運動場へ吸い込まれるように落下した。


 僕はしばらく何もできなかった。
 しかし運動部の練習の声が悲鳴に変わり僕はすぐに屋上を降りた。
 こういう時、何をすればいいのだろう?
 考えに考えたが最善策は浮かばない。

 誰かが呼んだであろう救急車の音を聞いたとき僕は自分がしなければいけなかったことを把握した。
 救急車を呼ぶ。
 簡単なことなのになぜ気付かなかったのだろう。

 担架に乗せられ運ぶ彼女を僕は別世界の出来事のように眺めていた。

 だから次の言葉も別世界の出来事のようだった。

「彼女をお前の命で助けてやろうか?」
「彼女が、僕の命で助かる……?」
「ああ」

 普段だったらこの申し出を断っていただろう。
 いや、普段じゃなくても断っていたかもしれない。
 しかし、僕は断れなかった。

「彼女を、助けてください……!」

 だって名前も知らない彼女は、いとこにとてもそっくりだったから。
 彼女を取り戻すことでいとこのことも薄れるかもしれないと思ったから。

 僕は、自分の命を犠牲にした。

—END—

あとがき
何故かすごく暗くなってしまいました……。
感動というよりバッドエンドに近いかな……。(コメライなのに)
女の子は助かったので完全なバッドエンドでもないと思いますが、ハッピーエンドではないですね……。

ちなみにこれは全て放課後の物語です。
同じ時間のみで感動系がすごく難しかったです……。
というよりこれって感動系じゃないような……。

最後まで読んでくれた方、ありがとうございました!

さゆ
次のお題は……

・なにかの擬人化(擬人化の内容はなんでもオッケー)
・10文以上150文以下

ジャンル・文字数は制限なし!
よろしくね!