コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: アニメイトには、花が咲く。 ( No.13 )
日時: 2014/12/28 19:22
名前: アカネ (ID: dBGHGSaq)

  05


 現在僕は、東雲さんと共に通学路を歩いている。
 東雲さんはさっきまでのハイテンションが嘘だったかのように、全く言葉を発してくれない。
 だから余計に、だんまりな状態が続いている。

 僕は同じ高校の生徒に見つからないかとびくびくしながら、背筋に冷や汗が流れるのを感じた。
 そして僕よりほんの少し低い程度の高身長を持つ、東雲さんの横顔を見やる。
 そして、東雲さんの桜色の唇からは到底似合わない、ドスのきいた声が漏れだした。


「あんたさぁ。私が日曜日に、あの店にいた事は絶対に口外しちゃ駄目って分かってるかしら。私あんたを監視するから、暫く一緒に行動するわよ」

「え」

「何が"え"よ。そうよ、こっちが私の本来の性格。あんた、私がアニメイトに行ったんだって知ったんだからそれ相応の制裁は受けてもらうから」

「あ、はい」


 怖い。
 それが、そのモードの東雲さんに対する最初の感想だ。
 こちらが本来の性格らしいが、まず差が著しい。それもなまじ容姿がいいからか、その迫力が尋常じゃないのである。
 黒いオーラを身に纏わせて、明らかに物凄く起こっている。握りこぶしはぷるぷると震えていて、こちらに殴りかかってくるんじゃないかと錯覚しそうだ。
 殺されそうだが、僕は喉にひっかかっていた質問をする。
 
 
「どうしても聞きたいんだけど、東雲さんって所謂、そのぉ…」

「そうよオタクよ。ラノベ、漫画、乙女ゲーもたしなむわ。BLはそんなに好きじゃないけど、めちゃめちゃ嫌って訳じゃない。ほどほどかしらね」


 即答だった。

「僕と似てる。僕の場合は乙女ゲーはギャルゲーだし、腐男子でもないけど」


 意外な似ている所を発見し、こんな状況でも僕は喜んでしまう。実際、洒落にならない状況だけど。
 僕はそこまで腐女子に抵抗感は抱かない。隠れオタクは案外いるモノだ。
 しかし東雲さんは、僕をゴミを廃棄するような目で見てくる。

「はぁ、ギャルゲーね。まだ高校生で、しかも顔は中の中から中の上くらいだからリア充になるのも諦めなくていいのに。終わってるわね、久し野って」

「東雲さんも乙女ゲーやってるじゃん。そこまで言わなくてもよくない?」

「だって三次元の男子で私と釣り合うような人いないし」

「正論っていうか認めざるを得ないっていうか、勝ち組の台詞だよね、それ。羨ましいより呆れてくるよ」

「勝手に呆れときなさい」


 もうなにもかも吹っ切れたかのように、東雲さんはカミングアウトをしまくってきた。本性出しすぎだ。
 三次元の男子で私と釣り合うような人いないし、とは。事実なのが恐ろしい。
 そしてそのまま、ちらほらと同じ高校の生徒がいる道へとやって来ていた。ここまでは幸い、同じ高校の奴らは僕と東雲さん以外住んでいないのだ。

 しかしどうしても目立つ東雲さん。そのすぐ側にいる僕を見つけたクラスメイトや上級生、果ては下級生はぎょっとした顔をする。
 勘違いですよ、そう必死に弁明したいのだが出来ない。
 猫をかぶりなおした東雲さんが腕にしがみついているからだ。

 それにどう対応したら分からない周囲は、戸惑ったように僕たちに近寄らない。
 
「じゃああんた、しっかり演技しなさい。私とあんたは付き合ってる設定で、くれぐれも私がオタクだって言うなよ」

「ひぃっ」

 首筋に息をふうっとかけて、東雲さんは一瞬だけ猫かぶりを剥ぎ取り、念を押した。
 特異すぎるシチュエーションじゃなかったら、もしくはガチで付き合えれば嬉しい。 
 だけどそれは現実ではない。
 横で甘ったるい声に切り替えて話しかける東雲さんに硬直しつつも、校内に入った僕。
 まるでそこは、僕にとって処刑場に見えた。
 だって、ギラギラ目を光らせた獣が僕を見てくるんだぜ?全員親衛隊メンバーだろうけどさ。