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Re: 心魂盟奴 〜ソウルメイド〜 ( No.3 )
日時: 2014/11/24 21:40
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: MT1OWC7F)

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 眩い白尽の世界に包まれる中で、青年はこの日、この時、正午を以って、とあるMMORPGタイトルの正式サービスが終了するという事実に悲嘆を隠せなかった。

 何処にでもある至極ありふれた話だ。

 今もそこかしこで起きているだろう、経営利益を生み出す術が尽き、運営が困難となったゲーム業界においての企業の末路。

 その結果が一つの仮想世界の破綻。

 定期業務の終了。

 ただそれだけの事。

 今の御時勢、別段珍しい事でもない。

 最先端3DCGを駆使し、現実世界を超えた、を謳い文句に活動を始めたフルダイブオンラインゲーム。

 自由度の高い内容で瞬く間に人気を博し、一時社会現象にもなったMMORPG。

 高価で年齢制限という規制もあったが、それでも多くの人々がこぞってログインし、思いのままにリアルの枠組みを抜け、ヴァーチャルの世界を楽しんだ。

 イベントや大規模アップデートがあればマスコミは皆お祭りのように囃したて、メディアは大々的に取り上げ、特集を飾った。

 余りの人気と加増するアカウントでサーバーが一時不調になることもしばしば起こり、ログインを中断されたユーザーが公式掲示板で怒りを露わに運営会社に抗議、脅迫するという事件も取り糺された。

 それほどまでに人々を魅了したこのゲーム。

 しかし、滔々と流れていく年月と技術の進歩、なにより世間の流行には勝てなかった。

 まず機材の圧倒的軽量化で、従来のモデルと一線を描く新機種をライバル企業が発表。

 より洗練されたグラフィックの美しさや細やかさ。

 装着容易な画期的デザインのコントローラーのモデムギアは人々に衝撃を与えた。

 簡単な操作性で最早ベッドに横になる必要は無く、インタラクティブダイレクトモジュールがより安全性と有用性を可能とした。

 後押しするように続々と発売される後発のゲームタイトルに敵うはずもなくあっという間に追い抜かれ、新機種携帯ゲームが我先にと台頭する。
 
 軽量装着で気軽に手持ち可能。時と場所を選ばず爽快操作で誰でも遊べるゲームが数多くリリースされるようになった。

 多くの人々は価格も安価で、そこそこ楽しめる手軽な娯楽を選んだ。

 先進の開発企業も時代の波に乗り遅れまいと、様々な手段を講じるが時は無情に残酷に過ぎ行く。

 日に日に傾く運営会社の経営悪化、それに伴い業務の縮小。

 ゲームの存続自体が危ぶまれた。

 それでも一部のユーザーに根強い人気を持ったこのゲーム。

 その熱い応援に励まされたのか、何とかサービスは継続されていた。

 だが、それも一ケ月前の公式ホームページに掲載された通知文がすべてを物語り、そして宴の終わりを告げたのだった。

 運営の経営破綻、企業の合併、開発スタッフの解散。








 



 青年は、再び大きく息を吐く。

 モニュメントディスプレイの時計は間もなく正午0時に差し迫ろうとしていた。

 今起きている画面の白いフラッシュノイズが終わる時、ネットワークの回線切断と共にゲームのサービス終了が通告されるだろう。

 チラリと背後に控えるメイド、配下の少女たちに視線を向ける。

 現実では在り得ないくらいの美人揃い。

 スタイルも鮮烈かつ抜群、天が二物も三物も惜しみなく与えたような眩惑の美悠。

 当たり前である。
 
 皆自分が容姿から性格、一からすべてデザインし、長時間かけてカスタマイズして創りあげた至高の乙女なのだ。

 共に戦場の死線を翔け、魔物が巣食う迷宮を攻略打破し、魔王や邪龍、はたまた魔神や破壊神を相手に大立ち回りを繰り広げた。

 輝かしい栄光の数々。

 多くのプレイヤーと腕を競った。

 互いのメイドを決闘させたり、より優れているのはどちらか等を一日中論争したりもした。

 それだけでは物足りなくなり、終いには違法改造のチート行為にも少々手を染めたのも今となっては懐かしい想い出である。

 勿論このゲームは戦闘だけでは無く、メイドたちとの愛の営みも完備されている。

 特別会員制限定課金の制限解除パッチはかなり高額だったが、彼女たちとの目くるめくも狂おしい獣欲の禁忌は今もリアルの愚息を奮い起たせそうだった。







 青年、プレイヤー名イクス・シュタッドフェルトは何度目かも解らない大きな溜息を深々と吐く。

 睡眠と生活費を削り、時間の許す限り投じた遊幻の日々。

 そのすべてが、その情熱のすべてが今、水泡の露と消えるというのだ。

 なんと嘆かわしいことか。

 願わくならば今一度、この空想の異界で・・・。








 加速する白光のリフレイン。



 減遅する意識のディフレクション。





 そして世界は暗転した。