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Re: 心魂盟奴 〜ソウルメイド〜 ( No.4 )
日時: 2014/11/25 14:41
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: 9jf1ANEm)

 3








 ブラックアウトした世界。

 このまま何事も無く終わりを迎えるものと思われた瞬間。

 急速に明滅する光が集束し、そして凄まじい閃光を伴い暗闇を弾き、開闢させた。

 まるでビックバンが起こったかのような目まぐるしい現象。

 そして青年が現状に気付いたときには、先程の激しい光りの奔流は消え失せ、冷然とした静寂が辺りを支配していた。

 そこは今しがた佇んでいた山並みが一望できる丘の上ではなく、パルテノン建築に酷似した厳かな神殿の内部に移り変わっていた。

 「これは・・・。転移か? しかし、何故こんな所に・・・」

 辺りを見回す。

 絢爛豪華とは言い難いが、白亜の巨石で区切られた床の石畳みに細かな彫刻が施された立派な石柱はいにしえの歴史を感じさせる祭壇をおもわせる。

 祭壇の中心部には神聖な雰囲気を醸し出す剣を掲げた翼を広げる天使像のオブジェが勇猛な姿を垣間見せる。

 知っている。

 ここはこのゲームをプレイする者ならば誰でも知っている場所だった。

 『黎明の神殿』

 ゲーム開始時に必ず此処から始まるからだ。

 「・・・ああ、そうか。ここでサービス停止の通告がプレーヤーに送られてくるのか。だとしたら、例の・・・」
 
 少し首を傾げていたが、当然のように納得した青年、イクス。

 すると、これまで何度も見てきたお決まりの光景が目の前で展開される。

 虹色の燐光が渦を緩やかに捲いて、やがてその中心に一人の神々しい輝きを讃える世のすべての男を虜にさせるような、とても美しい女性を形作った。

 『明星の女神 フリージア』

 このMMORPGゲームにおいて創造神であり、母なる慈愛の神、恵みの豊穣神とも呼ばれる存在でもある。

 足先までサラリと届く真っ直ぐな白銀の髪。

 金色の右眼と対をなすような深く蒼付く左眼のオッドアイの双瞳。

 透けるような柔らかな生地布のトーガを羽織る美の根幹を成す女神は微笑を浮かべて桜色のポッテリとした厚めの唇から言葉を紡ぐ。

 「青年、この世界は貴方を満足させるに値しましたか?」

 キャラクタークリエイト時にも聞いた鈴が鳴るような美声。

 プレイヤーが死亡した時の演出、その他の重要なイベントなどでも見知った姿、聞き及んだ口調。

 間違いなくこのゲームの中心を担う存在でもある女神様。

 「ああ、もちろんだ。今までプレイしたゲームの中でも最高にご機嫌な時間だったよ。・・・まあ、それも今日でお終いなんだが・・・」

 イクスは苦笑いしながらも、最後の最後でこうしてNPCといえども最高位の女神と自由会話を出来る事を嬉しく思った。

 運営の粋な計らい、という奴かもしれない。

 最後までユーザーを楽しませるつもりのようだ。

 「・・・そう。それはなによりです。しかし貴方も周知の通り、この領界、異空世界『ヴァルハラル』は残念ながら黄昏の終焉を迎える事になりました」

 女神は青年の言葉に微笑んだが、自身が述べる言の葉に哀しげに顔を曇らせる。
 
 だが、僅かに憂いた女神は顔を上げ、慈しむような視線でイクスを見つめる。
 
 「私は貴方をずっと視ていました。そして思いました。この者は本当にこの世界が、心から好きなのだと、本当に楽しそうに冒険をし、世界の一欠けらまで愛していたのだと」

 突然の女神の自己評価に面喰ったイクス。

 視ていた?

 まさか、今までのプレイングを余すことなく監視されていたのか?

 チート行為も、メイドとの悦楽官能体験も。

 「あ、あの、あれは出来心というか、その・・・」

 そんな青年の内面を察したのか、女神は優しげな笑顔を浮かべる。

 「何も問題ありませんよ。そういう仕様のゲームですから。楽しみ方は人それぞれ個人の範疇。寧ろそこまでこの世界に入り込んでもらって、いち創造神としては神冥利に尽きます」

 蒼くなって慌てる青年に女神は慈母の眼差しを向けると静かに語る。

 「・・・心残りは貴方に命を貰ったあの子たち。他のプレイヤーたちと違い、貴方は本気で彼女たちを愛していた。物のように決してぞんざいに扱わなかった。共に笑い、泣き、怒り、生きた。いずれ消えてしまう架空の夢物語なのに・・・。まるで自身のすべてをそこに置き去りにしたように・・・」

 女神の言葉にふと、思考が切り替わる。

 女神の言った、あの子たちとは自分の仲間のメイドたちの事。

 思い出す。

 初めてプレイしたこのゲームの事を。

 随分と昔のように思う。

 サービス開始以来、数年と経っていたがそれ程時の流れを感じさせることは無かった。  


 楽しかったからだ。


 本当に楽しかったからだ。


 そして思い出す。


 このゲームを始めたきっかけを。