コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 焼き餅は美味しくなくなくないのです【短編】 ( No.2 )
- 日時: 2014/12/07 09:43
- 名前: あめしぐれ ◆adhRKFl5jU (ID: aU0XF0c4)
もう、なにも見えない。
真っ白なはずの雪だって、どうみたって
鼠色にしかみえないよ———
( ☆ ) 恋には光と影がいる ( ★ )
冷たい空気が鼻を通り抜ける。頬を冷たい風が撫でる。
そして、目の前には世に言う“告白現場”。
高身長で雪の日には合わない楓色の肌。整った顔立ちの少年———歩夏(ほなつ)。彼は私の幼馴染みで、私は誰よりも彼のことを知っている自信がある。
歩夏と向かい合っている、背が小さくて男子のような髪型、服装。男子並みの身体能力を持つ少女———詩乃(しの)。サッカー部で、凄いことを平気でやる性格。
「あのー……さ、歩夏」
頬を紅に染めた詩乃が口を開く。
詩乃が歩夏に告白する——それだけなのに、何故、こんなにも痛く、苦しいのだろうか。
私が歩夏のことを好きだから?——いやいや、有り得ない。ただの幼馴染みだ。それ以上でも未満でもなんでもない。
じゃあなんで手も足も震えているの?——そんなもの、寒いからに決まっているでしょ。
それじゃあなんで、歩夏の行動に期待して———
「好き。歩夏のことが、好きです」
「付き合って、ください」
詩乃が真っ直ぐな瞳で、歩夏の目を見て発した。
歩夏は目を見開いて、何度かまばたきを繰り返した。
時が止まったような沈黙が流れた。私にはその沈黙がとても長く感じられた。
ついに、歩夏が口を開いた。
「え、えっと、宜しく?」
歩夏が言い終わらないうちに、涙が一粒こぼれ落ちた。
一粒では終わらなくて、次から次へと涙が頬をつたった。
自分でもなんで涙が出るのか分からなかった。自然と足が走り出していた。
涙で視界がぼやけて、ちゃんと歩道を走れているのか分からなかった。
どこに向かっているのか、この涙はなんなのか。
——好きなんだよ、好きだったんだよ、歩夏のことが。
糸がほどけた。全ての糸がほどけた。
迫り来るトラックを最後に、私の記憶はそこで途切れたのだった。