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Re: 焼き餅は美味しくなくなくないのです【短編】 ( No.15 )
日時: 2014/12/13 09:48
名前: あめしぐれ ◆adhRKFl5jU (ID: ktd2gwmh)



 何も思い出せない不安と恐怖と情けなさで、思わず涙が込み上げてきた。だんだん息が乱れてくる。嗚咽と共に吐き出したような一粒の涙が、手の甲にかいてある一つの青い線に触れたとき。

 この線は何だろう、と思ったとき。


__ガチャッ


 私の病室に、誰かが入ってきた。

 涙も拭かず、その人を見ると……。


 私と同じくらいの青年だった。黒髪の癖っ毛。楓色の肌。キリリとした少しつり目。スッと高い鼻。走ってきたようで息が乱れ、頬は紅に染まっていた。

 ——きっと、此処に来たのだから私の知り合いなのだろう。

 相手を傷付けてしまう“誰?”という言葉を飲み込んで、青年の次の言葉を待った。


「れい……、大丈夫か……?」


 その青年は時々唾を飲み込みながら、乱れた息と共に言葉を発した。私のとなりにゆっくりと腰掛けた。


「ほなつくん……れいは……」

「れいに……何かあったんすか……?」

「軽い記憶喪失、なの。一部の記憶が……無いの……。」


 “記憶喪失”という言葉に脳が反応して、また涙が出てきた。どんどん、どんどんあふれ出てきた。


「俺のことは、覚えてる? れい……」


 傷付けてはいけない。けれど、嘘を吐くのはもっといけない。だから、私は正直に言った。


「ごめんな……さいっ……。覚えてない……っ、です……。」


 ぼろぼろと出てくる涙が、うっとうしかった。吸っても吸っても出てくる鼻水が憎かった。