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Re: EUREKA ( No.13 )
日時: 2014/12/21 02:08
名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: nlCdadAl)


「ん……ぅ」

 涼しげな水音を聞き、日向の頭は覚醒する。
 まず、目の前にある小さな湖を眺め、自分がなぜここにいるかを考える。
 ——おそらく鈴芽の魔法により、適当な場所に飛ばされたのであろう。

「えっと。ここは……」

 とりあえず、危険と言うことは本能が察している。その日向の頭に不意に浮かんだ種族の名——オンディーヌ。
 湖に背を向け、歩こうとした。その時

「——あの」
「ぴゃっ!?」

 背後から声が聞こえ、思わず変な声を出してしまう。恐る恐る振り返るとそこには、水色の長髪を垂らした、純白のワンピースを着た少女が立っていた。ただし全身びしょ濡れである。
 その姿は「水の中からたった今出て来ました。」と言う状況——つまり、オンディーヌであって。
 少女はそのままゆらゆらと一歩ずつ近づいて来る少女に、日向は思わず腰を抜かしてしまう。

「ふぇえと……、ぼ、僕に……何かご用で……?」
「あの……」

 少女は恥じたように、真っ青な頬に両手を当てて言う。

「ひ、一目惚れで……」
「……はひ?」

 予想の斜めのそのまた斜め上を行く発言に、日向は再び変な声を出す。

「あの、わたしと一緒に、来て下さいませんか?」

 日向の視線に合わせるようにその場に座る少女。

「えぇと、僕、まだ君と会ってそんなに立ってないし。そもそも名前も知らなくて……その……」
「それなら、教えます! わたしのこと、隅から隅まで! 全部!」
「いっいや、そう言うことじゃなくて……ッ! ぼ、僕、……好きな人がいるから」

 日向は知らなかった。オンディーヌの習性を。まずはその一つ。
 ——夫が不倫をした場合、オンディーヌは夫を殺さなければならない。
 いや、まだ別に結婚している訳でもないのだが。別に不倫をしている訳でもないのだが。向こうがそう思ってしまったのならもう“ツミ”である。

「……そう。あなたは、わたしを棄てるのね?
 わたしはあなたを愛しているのに。愛してあげるのに。
 そうなのね。じゃあ、あなたはもう“詰み”なの。そしてこれは、わたしを棄てると言う“罪”なの。
 じゃあね」

 オンディーヌは自分の水で作られた手を鎌の形に変え、振り下ろす。

「——ツー・フリーレン」

 直後聞こえた透き通るような声。同時に水の鎌が凍り、地面に刺さる。

「日向。情報説明……は、あとで良い。大丈夫か……?」

 中指を口元に添えながら呟く、白緑色の瞳を持つ少女——真白。
 真白は日向の隣に立ち、オンディーヌを見据える。

「あなたも、わたしを棄てるの? わたしを、悪だと思うの?」

 オンディーヌの言葉に、真白は日向を一瞥(いちべつ)し、

「僕は、悪がわからないんだ」

と、言い、続けた。

「確かに今のお前の立場を見れば、僕らから見たお前は“悪”だろう。でも、お前本人から見れば、自分を振った日向が“悪”であり、“罪”を背負うべき存在。故に、どちらも“悪”だ」
「じゃあ、何です? 自分はどっちも悪だと思うと?」

 オンディーヌは鎌を引き抜き笑う。

「だから、僕はこう考えることにした——」