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Re: KEEP THE FAITH ( No.232 )
日時: 2016/07/09 20:21
名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: 5YqwrR3X)

 障害物を物ともせず音源へ向かうカインの様子を一言で表そう。「嘘みたいに速い」と。
 僅か数10メートルであろう距離は、彼にとってはとてつもなく長い時間に感じられたという。

「脚力向上」

 ぼそっと吐き捨て、カインは刀を構えた。
 ——見えたのだ。傷付いて横たわる2人の少年と、それを見下して炎の剣を振り翳す男の姿が。

「——ッ」

 自分にすら聞こえないような小声で魔法を唱え、男へ刀で殴りかかる。男は炎の剣を囮に攻撃をかわす。剣と思っていたそれはジュッと音を立てて消滅した。技の相性の問題だろうが、そんなことはどうでも良い。
 男は赤黒い髪をかき上げて不敵な笑みを浮かべた。

「ああ、坊やは強そうだ。メインディッシュが自分から来たと言ったところか? あとの2人はいつ来るんだい?」
「さあ。来ないかも知れませんし、それはあなたには関係ありません」

 2人の前に立ち、刀を構え直して千暁を睨む。千暁は相変わらず笑みを浮かべたまま炎を纏った剣を作り出した。
 辺りは先程の爆音相応の傷跡が残されており、見るも無残というよりは見て察しろといった具合だ。

「ところで、君とその子たちの関係はなんだい? もう1人はいないようだが」
「あなたなら分かっているのでは? 千暁さん」
「……流石情報屋。君は私が生きていることくらいお見通しだったのだろうね」

 ——ゼノの幹部として。
 嗚呼。カインは内心呟く。——何故今日に限って自分の仮説が実現して行くのだろう。
 絡まっていた紐がするすると解ける感覚を覚えながらカインは薄く笑みを浮かべる。

「で、こちらとしてはあなたがこの子たちをわざわざ始末しようとした理由の方が気になるのですが」
「——私は、人形が欲しかったのだよ。私の言うことだけを聞き入れ、確実に執行する、完璧な人形が」

 余裕のある笑みのまま千暁は剣を片手で振る。

「デジェル・ミストラル。彼はとても良い人形……だった。流石にあの娘には敵わなかったが」

 ちらり、と千暁の視線が一点を捉えた。カインは小さく舌打ちをする。
 刀を片手で握り、地面に刺す。すると刀は薄明るい光を放ち、四散した。

「……何のつもりだ?」
「武器変更ですよ。お気になさらず」

 はあ、と息を吐き、カインは右手を前に突き出す。次は黒い光が腕を覆い——それを両手に笑みを浮かべた。

「念のために聞きますが、帰れと言えば帰ってくれますか?」
「……ふっ、そんなわけないだろう。むしろ貴様をこの場で解剖してやりたい気分だ」
「やはり、そうですか」

 縄の付いたクナイのようなものを両手に絡ませた男は、笑みを絶やし、氷のように冷たい表情で一言。

「なら、遠慮はいらないか」