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Re: KEEP THE FAITH ( No.238 )
日時: 2016/07/16 17:15
名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: 5YqwrR3X)


 リンとの挨拶を軽くすませ、例の物を見せてもらう。

「日記、ですか」
「そうみたい。中身は見てないけど。ここで読む?」

 触れた瞬間呪われそうな禍々しいデザインの分厚い日記を抱え、詩音は役所を見渡す。

「外で読もうと思います。……人多いですし」
「そう。私は別の仕事があるからここでバイバイ」
「わかりました。わざわざありがとうございます」
「ここまで来たのはあなた。私はゼウスで仕事のついでに渡しただけ」

 礼はいらないと真顔で言い切り、リンは流れるように出て行ってしまった。取り残された詩音は本と役所の扉を交互に見つめ、溜め息を吐く。

「おも……っ」


 *


「じゃーん」
「……なんだ、これ?」
「あなたが最初で最後に殺った人物の日記です」
「えぇっと……、……あ。お前の親父か」
「体で言うとあなたの父でもあるのですが」

 沈黙。

「ってかお前ここ数日来てなかったじゃねェか。何してたんだよ」
「馬と戯れておりました。昨晩は何故か無性に疲れてまして」
「……? とにかくその日記なんだな?」
「はい。その通りです。ものわかりが良いって素晴らしいですよね」

 笑顔で目の前の机に分厚い日記を置くと、シルアの頭の上に青い鳥——シアンが着陸する。羽をバサッと広げながら「ピィ!」と鳴いたその姿は、さながらドヤ顔のようだったという。

「で、この日記がなんだ? 呪われてんの?」
「呪われてはいないようです。昼間から宿でこんな本持って寝てるんですからさっさと進めさせて下さい」
「あっはい」
「リンがこれを渡してくれたのですが、どうも1人で見る気にはなれなくてですね」
「実質ぼっちだけどな。所詮俺はお前でしかないし」
「……それはどうでしょうね?」

 向かい合って笑っていても、こんなに違う。顔はどちらも同じく詩音。それでも2人にはじわりと個性が滲み出ていた。

「まあ、良いぜ? 俺も興味はある」
「へー」
「……逆に無関心な感じ? 酷くね?」

 どぉっせい。そんな掛け声を心の中で唱え、詩音は片手で表紙を捲る。

『——妻の命と引き換えに息子が生まれた。紫苑色の虹彩の。』