コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: KEEP THE FAITH ( No.263 )
日時: 2017/02/10 16:32
名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: 5YqwrR3X)


 夜。静まり切った城内に闇色の影が微かに動いた。
 それは少したどたどしい足取りで。辺りに細心の注意をしながら長い廊下を音もなく駆け抜ける。
 暗い階段を上がり、気配のない曲がり角を何度も曲がり、うっすらと冷気の漂う部屋の前に止まる。

「——……、……」

 人の声を確認して、影はダン、と扉を開けた。
 中にいた少年は短く悲鳴を上げてから、咄嗟に奥にある宝石の前に立ち塞がる。
 ——同時に、影は頭から前のめりに地面へ倒れ込んだ。

「……真白」
「やあ、こんばんは。日向」

 影——ゲシュテンペストの頭部と思われる部位をぐりぐりと踏み付けながら真白は腕を組んでいる。
 にっこり、と。凄まじく威圧的な笑みを浮かべながら少女はゲシュの上に両足を乗せる。

「言いたいことは?」
「ごめんなさい」
「何に対しての謝罪で?」
「……1人で来て」
「君今の状況で風蘭連れてて僕が来なかったら大惨事だからな」
「勝手に誰にも言わずに来て、ゴメンナサイ」
「まあ僕いつもこの隣で張ってるから知ってるけども」
「えっ」

 睡眠はほぼ必要ないので、と続けながら懐から取り出したロープでゲシュを縛りだす。

「声、蓮に届いてたらいいな」
「……うん」
「届いてると思う」
「だと、良いな」

 そんな会話をしているうちにゲシュは綺麗に縛り上げられていた。うめき声なんて聞こえない。

「にしても、それ、どうやって入って来たのかな」
「単体ならよくこの辺りにいる。それを処理しなかったから調子に乗ったものだと推測する」
「いるの!?」
「いるぞ? そうか、日向はずっと城内生活だったな」

 ぽん、と手を打ちながら真白は宝石を見上げた。

「うん。蓮が戻ってきたら、一緒に外に行こうと思う」
「それがいい。僕は隣部屋にいるけど、日向は早く戻った方が良い。寒いだろうし」
「真白の魔法でこの温度なんだけどね? 僕もそろそろ寝るよ。助けてくれて、ありがとね」

 ふと見ると真白はある一点を凝視していた。日向もその方向——宝石へ視線を向けた。

 冷たく光る宝石の一部に、ゆっくりと、亀裂が入っていた。