コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 【アンケート】EUREKA【実施中です】 ( No.39 )
日時: 2015/01/25 02:03
名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: nlCdadAl)


*番外編

 +テンタンディザイア+


 バンシー。絵本や小説には、“不吉な妖精”と言われる。
 歌姫。世間的にはディーバ——世間の中心のようにふるまう者と言われる。
 人間の遺伝子を雑ぜて創られたのが“あたし”。バンシー寄りになってしまったものの、“成功”という扱い。

「みえないハロー……ハロー……ぼくたーちの今はー……」
「——鈴芽、そろそろ時間です」

 あたしよりも年上のグリフォンの男の人が扉を開けて優しく言う。
 この人は、良い人。“ポートグリフ”なんていう、訳のわからない名前をしてるけど、まあ、良い人。多分、良い人。
 いつもは白衣と眼鏡と羽の、黒髪青年姿。本当はちゃんとグリフォンみたいな外見らしいけど、「見分けがつかないから」っていうことで、本で読んだ、“理科室の先生”みたいなことになってる。

「あと、私は好きなんですが……。お婆様の前であまり“歌ってはいけません”よ。」
「うん」

 木製の小屋から出て、あたしは先ほど途切れてしまった、未完成の歌の続きを小さく、自分にしか聞こえないような声で紡ぐ。

「真実を求めながら疑うことをやめないんだ……」

「どうかしたんですか?」
「ううん、なんでもない。ポートこそ、寝ぐせついてるよ?」
「えっ!?」
「嘘だよ。これで36回目だね♪」

 表面上は笑いながら、ポートグリフの白衣を掴んで隣を歩く。
 この人は、あたしの考えを知らない。でも、これはなんとなく分かってるんじゃないかな。
 ——今日があたしの“終末”だって言うこと。

 崖の下の声が届くことはない。
 あたしの声が響くことはない。
 なによりあたしの願いはない。

 教会の一番奥で。お婆様の目の前で、あたしは皆に見られていた。その中に、ポートはいない。

「鈴芽、今まで私たちの実験台となり、真実の証明のために存在したことを感謝してます。あなたもさぞ、誇らしいことでしょう。これで願いが叶うのですから!」

 教会の中にいる人が皆で歌い始める。
 まあ、その歌のチョイスが「君が代」っていう現実はもはや突っ込まない。——だってあたし、ツッコミ要員じゃないし——
 まあ、その一言だった。あたしが文字通りの意味で“ブチ切れた”のは。

「ねえ、何なの?」

 歌の真最中に。わかっていたことで。

「あなたたちにとって、あたしって、何?」

 小さい頃から、ずっと小さな小屋から出されずに。

「あなたたち、あたしがこんな生活で、嬉しかったと思う?」

 出されると同時に、“神様”のように扱われて。

「——真実って何?」

 直後、お婆様の顔は真っ赤になり、無様に、本当に本で見た“バンシー”のように怒鳴り散らす。

「何を言いますか! 真実は真実! 真実こそ本当の救い! お前はそのための生け贄で、他に盗られないために閉じ込めた! 今からお前はこの世界から抹消される!
 だいたいっ、お前みたいな聞いているだけで鳥肌がたつ下手な歌を歌うやつはっ歌姫でもバンシーでもない!」

 ポートの言ったことが、なんとなく理解できた。

「……で?」

 でも、あたしから漏れるのは紛れもなく、今まで隠して来た——嘲笑。

「つまりお婆様——mygrandmotherの言いたいことはこうでしょ?
 ——自分たちは、バンシーでも歌姫でもなんでもない、歌の下手な亜種族に、頭を下げてました。ってね♪」

 人差し指と中指を立てながら目の前に持って来て、それを横に傾けながらニッコリと笑みを浮かべる。
 周りの人は、どう思っているんだろう?

「アッハハ♪ 滑稽だよね、そう言うの! まあ、せっかく歌歌ってもらっちゃったし、OKあたしはここから出て行くよ♪
 ——処分なんか、絶対嫌」

 言い放つと同時に、あたしの体は教会から飛ばされる。
 小屋は強力な結界で閉じられているだけ、ここの結界はもろく感じる。故に、魔法は簡単に発動できた。


 *


「下手な歌、かぁ……」

 崖の下なんて真っ暗な場所ではなく、草原の草の上に座り、両手をグーパーと動かしながら呟く。
 そして、今日出来た部分を歌う——


みえないHello 僕たちの今は
真実を求めながら疑うことをやめないんだ
いつもHello 気づかないかおで
泣き叫ぶその声が止むのを待つだけ?


 自分で歌っただけで、少しばかり鳥肌が立つ。
 なんていう馬鹿らしさ。なんていう開放感。

「——それは、お前がつくったのか?」

 後ろから、声が聞こえた。
 瑠璃色の瞳と藍色の髪を持った、あたしより少し年上の袴姿の男の子が、近付いてくる。

「あたしの歌、だよ……。気持ち悪いよね。聞いてるだけで、鳥肌が立つくらいに——」
「ああ、鳥肌が立った」

 男の子はあたしの隣にしゃがみ、続けた。

「良い歌だ」

 ——ああ、もう。あたしはすでに、願っていたんだね
                          真実の存在を——