コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: EUREKA ( No.77 )
- 日時: 2015/03/02 22:01
- 名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: nlCdadAl)
*番外編
+アイセキアウェイク+
家を出たい。そう思ったことはなかった。
昔から、稽古は父が、家事は母がしてくれた。
友だちはそれなりにいたが、多すぎてもあれだし、何より“全員平等に”が難しいためつくらない。面倒臭い。が、とある友人がここへ来た。
——西園寺詩音。真夜中に恐らく父と思われる人物に引っ張られるかたちで家の前に来訪。口論の末、訳がわからないまま唐突に暴れ出し、父を殺害。
その現場を俺は目の前で見ていたが、根拠のないまま俺は確信していた。——こいつは、詩音ではない。と。
そのためか、気付いたら根性で止めようとしている自分がいた。と言うのも覚えている。
まあ、そんなこんなで西園寺詩音は俺と同じ家に住むことになった。
それから数年後。
「竜人は危険なので注意して下さい」
「そうか……。竜人にも、種類があると聞いたが」
「相性にもよりますけど……。特別強いのはやはり氷でしょうか」
「氷……?」
「はい。まあ、炎とか水とかも相当ですけどね。あ、雷もありますね」
自室で種族の知識を詩音に叩きこまれている時、事件は起こった。
外から悲鳴。——母の?
「……行ってみましょう」
「ああ」
部屋を出ると、目の前の柱がこちらへ向かって倒れて来るのが見えた。間一髪自分はかわすが、詩音は?
煙の中から咳込みながら柱をまたいで来たのは詩音——数年前の惨事を思い出す。
「……あ。お前、あれか。前に俺が親父殺したとこ見てたヤツ」
「お前は、……誰だ?」
「えー。俺は俺だって。シオンですよーってな。うん。どうでも良いし、流石に俺お前のこと守りながらここ逃げること出来ねェからな? さっさと撤退するぞ」
——守る? 実の父親を手に掛けて? “詩音”を泣かせて?
硬直していると、詩音は俺の腕を掴み、自分のもとへ引っ張って来た。何をすると睨みつけると同時に、後ろで何かが破裂する音が聞こえて来た。見ると、俺が今までいた場所には炎が。
「な?」
無邪気だが、威圧を感じる笑顔に俺は従わざるを得なかった。
——両親は? 友だちは?
裸足のまま走って、とうとう村から出てしまった。
「霧雨村、今までありがとうございましたっ! ノシ!!」
詩音は敬礼し、俺を連れて——次は服の袖を引っ張り——宙を浮いた。
「……む。お姫様抱っことかした方が良いかな」
「は?!」
「じょーだん。もうちょい離れるぞ。うん。服脱げないようにな」
直後、詩音は低空飛行のままで速度を上げた。
*
「ほい。ここまで来たらまあ大丈夫だろ。始末するのに夢中だろうしな」
「……そうか」
「めちゃくちゃテンション低いな当たり前だけど……。じゃあ、あれだな。気分転換に俺の名前つけろよ」
「!?」
ワケガワカラナイゾコイツ。
「俺の存在は詩音には秘密。詩音が傷付くからな。もうズタズタだけど。うん。何か聞かれたら適当に話し合わせとけ」
「いや、その」
「あーそっか。名前考えてくれてるのかありがとう。うん。冗談のつもりだったんだけどな。どうせだし貰うわ」
違うぞおい。
真面目な話考えていたのは現実だが、そんなことよりも前とやってることが全然違うことなど聞きたいことが沢山ある——。
「時間ないから、そろそろ詩音に戻るぜ?」
「——シルア」
「は?」
「シルアでどうだッ!」
時間がない。時間がないならもうせめて名前だけでも決めてしまおうそうしよう。→シルア
正直自身があったり。
「——ハハッ。マジかお前。本気で考えてくれたのか?」
「うるさい」
「ふはっ。ありがとう。じゃあ、俺はシルアだな」
「……お前は、な。詩音は詩音だ。お前が何か知らんが、あまり詩音を困らせるな」
「む、大分嫌われてるね知ってるけど。うん。大丈夫。俺は詩音のための存在だから。じゃあ、またいつか、よろしくね♪」
すると詩音の体は傾き、俺はそれをなんとか受け止め、その場におろした。
——詩音のための存在。つまりシルアは、詩音のために生まれたということ。
では何故、あの時は父親を殺したのか。仮説を立てると、シルアが理解していなかった。または——詩音が願った?
とりあえず俺は、しばらく詩音と慣れない世界を放浪することとなるだろう。
——この時少し興奮していた気がしたのは、自分の心の中にしまっておこう。