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Re: EUREKA ( No.88 )
日時: 2015/03/11 14:43
名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: nlCdadAl)
参照: 震災記念日ですね


「疲れたもう眠いおやすみ」
「おい」
「一応あの子は今日ファインプレイだったので、休ませてあげて下さい」
「……おう」

 これは、その場の全員が寝静まった、夜の話。

「昨日はやってくれましたね」

 荷車から降りて、菫色の髪の少年は独り呟く。草原に座り目を閉じると、詩音は精神世界へ辿り着く。
 目を開くと、そこに草原はなかった。赤黒い雲に覆われた空。紫など、暗い色をベースにした大きな屋敷の庭に立っていた。その景色に詩音は吐き気すら覚える。屋敷の玄関を勢い良く開けると、正面には大広間と、その奥には階段が見えた。階段を上がり、一番右の部屋を開ける。
 そこには自分と同じ姿の存在——シルアがいた。

「よ、久しぶり?」
「久しぶり? あなたとここで会うのは初めてです」
「あー、そうだっけ? そっか。お前寝てる時こっちでも寝てることが多いもんな」
「誰だって寝るときは寝ますよ多分」
「昨日は大変だったな」
「……放っといて下さい」

 シルアが椅子に座り、詩音は溜め息を吐いてその前の椅子に腰を下ろす。

「……昨日は大活躍でしたね」
「だろ。結界張ったから生きてるが、トラウマにはなったかもな。ってかあそこで不便なのは“俺以外の出した怪我は治らない”とこだよな」
「それはあなたにとって好都合でしょう。で、そのトラウマの対象は?」
「お前だな☆」
「てめぇ……」

 今すぐにでも殴り飛ばしてやりたい衝動を抑え込み、詩音は再び溜め息を吐いた。

「えーっと、なんだっけ? あーそうだ。リンゴの保存方法」
「それは全く関係ないですよね。それで何を語り合えばよろしいのでしょうか? そんなことではないですよね? ね?」
「お、おう……。すまん。えっとだな……、そう。これからの方針」
「……まあ、そうですね。はい」

 とうとう頭を押さえて首を振る詩音に、シルアは苦笑した。

「はい。私は穏便に済ませたいのです」
「俺は暴れたいんだよ」
「知らんがな」
「いやいやお前人のこと言えないからな?」
「まあそうですけども。……そうじゃなくてですね」
「おう、わかってるぜ? 人傷つけたくない系男子だろお前」
「何ですかその系統。そう言う訳ではありませんよ」
「じゃあどういう訳だ?」
「さあ、どうでしょう」
「「……」」

 淡々とギャグに持ち込まれる会話だったが、沈黙が訪れる。時計の音だけがその場に鳴り続ける。

「……つかお前、記憶共有なんとかかんとかみたいなやつさ。確実に把握してるよな」
「さて、どうでしょうね? ……私はあくまでも“記憶していない”という設定です」
「お前ホント変なとこで面倒だよな」
「それは褒め言葉として受け取っておきます」


 *

「結論は?」
「人前では基本出ない。相手にトラウマ埋め込まない。常用外は詩音自身の許可が出た時と、詩音が死にそうな時」
「最後のは言ってませんが?」
「良いだろ。そんくらい」

 本日何度目になるかわからない溜め息を吐き、詩音は机に突っ伏する。シルアが頭を撫でると、素早く詩音の右腕が頭を撫でていた手を叩いた。

「まあ、ゆっくりして行けよ」
「私が本体なのですが……」