コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: EUREKA ( No.89 )
- 日時: 2015/03/12 16:50
- 名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: nlCdadAl)
皆が寝静まり、虫の鳴き声のみ響き渡る頃。荷車の中で目を覚ました人物がいた。起き上がると藍色の髪が遅れて揺れる。目を擦りながら開き辺りを見回すと、人数が足りないことに気付いた。
少年は溜め息をこぼし、荷車から出る。近くの草原に見覚えのある菫色を見つけ、その隣に座る。目を閉じているため、寝ているのだろう。
「……詩音?」
豪雷が声を掛けるが、反応はない。
——“もう1人の詩音”の存在を豪雷は知っていた。と言うより、“もう1人”が誕生した瞬間を最初に見ていた。本人の性質上、気付いているとは思うが、なかなかそのことを言えずにいた。
反応がないどころか、呼吸の音も聞こえない。
(ああ、そうだった)
豪雷は詩音の服の裾を掴み、その場に転がって目を閉じる。
「……」
巨大な門の先に、物騒な色合いの屋敷が見える。門は少し開いていて、その隙間から入ることができた。無駄に広い庭を足早に通りすぎ、玄関を開き薄暗い光を確認した時、上の階で物音がした。階段を上がり、物音のした部屋の前に立った時、扉が開いた。
「し……。シルアだな」
「おう、よく分かったな! ってかどうやってここまで来たし」
「小さい頃、詩音がよく話していたからな。一度来たこともある」
「うっそマジかよ想定外。いつの話だ!?」
「三年ほど前だな」
「んなもん知るか!」
「だろうな」
シルアは扉を閉めると、その隣の部屋の扉を開けた。
「どうぞ、お客さん。暇なんだよ少し付き合え」
俺は詩音を見に来たんだが。そう思ったがもう手遅れ。豪雷は溜め息を吐いてから部屋に入る。シルアが扉を閉めて指を鳴らすと、大理石の床はたちまち畳へと姿を変えた。
「今日は溜め息の日かよ」
「?」
「いんや、なんでもない。ちなみに詩音は隣の部屋で熟睡してるぞ」
「そうか。何があった」
「あいつは基本的にここでは寝てるからな。そっちの方はこの世界での詩音の部屋で、ここは基本使われてない」
「お前の部屋は?」
「この階の一番左」
「間逆か」
シルアは欠伸をしながら畳に寝転がると、豪雷を指さした。
「お前、好きなヤツいるだろ!」
「はあっ!?」
「……まさか、図星か? おい」
「知らんうるさい黙れ」
そう言って豪雷は顔を隠してその場にうずくまる。シルアはそれを見ながらニヤニヤと笑っているのであった。
*
「……」
昨日早く寝たぶん、いつも以上に早く起きてしまった真白は年長2人組がいないことに気付く。気分転換がてら探そうと立ち上がり、荷車から飛び降りる。荷車って屋根とか普通ないはずだが、と余計なことを考えながら目の前に広がる草原を見る。
「……僕、ツッコミ役じゃないんだけどな」
そしてその結果、眠っている詩音とその詩音を抱き寄せて寝ている豪雷を視界へ入れてしまったのである。
——この光景を鈴芽が見ていたら、どうなったのだろう(一応腐女子な鈴芽)。
「別に僕、同性愛とか否定しないけどさ。勝手にやってろと思うよ。でもさ、夜中に外出てそれして寝るとかさ。大丈夫かなこの2人」
自分に言い聞かせるようにぶつぶつと呟いていると、後ろから物音とともに人影が——
「ましろん、Good morning♪」
「……おはよう鈴芽。そしてあの光景を見てどう思う」
その後、鈴芽はSAN値を大幅に削ったという。