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Re: 脇役にもなれない君たちへ ( No.13 )
日時: 2014/12/28 00:45
名前: みもり (ID: DYDcOtQz)
参照: 友達に、失格も合格もないっての。

 申し訳ございません、お子様ランチは小学生以下のお客様限定となっておりますと、申し訳なさそうな欠片もなく言った店員に夢乃さんは「それならこれで。ふわとろオムライス」と笑顔で告げる。

 「電子データにお金を入れるみーちゃん。私先程バイト代が入ったので、ここは私が助けてしんぜましょう」

 みーちゃんって、猫の名前じゃないんだから。
 ポケットから茶色の封筒を取り出す夢乃さん。その封筒を無造作に破き、テーブルの上に1枚ずつ福沢諭吉を召喚しだした。「今日は、5万円。最近羽振り悪いわぁ」と頬杖をつき、意味ありげに僕を見る。
 5万円。それは僕の一ヶ月分の食費兼ゲーム代に相当する。それをたった一日で稼いでしまう夢乃さんは何者なのだろう。いや、薄々はわかっていたのかもしれない。心のどこかで否定していたかったのかもしれない。

 「さっきラブホから出てくるとこ見られちゃったしね。口止め料ってやつかなぁ」

 微笑んで僕に1万円を1枚差し出した夢乃さんは、「これで美味しいもの食べてね」とまるで僕の母親のように言う。こんなお金、受け取れない。口止め料なんて言うけれど口外するような友達もいないし、夢乃さんもそれは分かっていると思う。いや、そんなことより。

 「らぶほ……」

 お城みたいなあの建物の名前をさらっと言う夢乃さんに、なんの言葉も出ない。ラブホテルですることなんてひとつしかない。夢乃さんには彼氏がいたのかと一瞬思ったが、彼女の手元に有る5万円を見て確信した。援交だ。

 「なに? 一緒に行きたいの?」
 「そ、そんなわけ……てか、高校生同士は受付入れないじゃんっ」
 「ラブホには受付なんてないよ。好きな部屋のパネル選んで、お部屋で会計するんだよ」
 「……っ」

 口元を抑えて笑いを堪えている夢乃さんが、「ほんっとおもしろい、大好き」と呟く。大好きな人に大好きと言われたのに、全然嬉しくないのはなぜだろう。顔が熱くなっていくのが自分でもわかるのが悔しい。

 僕が半年間見てきた、笑顔が可愛くて、大人しいけどしっかりしてて、清楚で、清純で、誰にでも優しくて、たまに生物の時間居眠りしてて、いつもピンクのお弁当箱を持ってきていて、僕が倒れた時保健室にわざわざ来てくれて、今日僕の携帯を没収した純粋健全大天使夢乃さんは処女ではないどころかどこの馬の骨ともつかない男と毎晩体を重ねる援助交際を繰り返していた。僕の純情を返して欲しい。こんなの、今日驚いたことベスト1に余裕のランクインだ。ちなみに第2位は僕がパズモンに200万円課金していたことで、第3位はテスト中に携帯が鳴ったこと。そして第4位は西澤さんがジャンプの発売曜日を知っていたこと。今日はいろいろありすぎだと思う。

 ちょうどいいタイミングで運ばれてきたとろとろのオムライスを見ても、僕の食欲は回復しなかった。
 目の前で夢乃さんがハンバーグを丁寧に切り分けて口に運んでいく。今日の昼僕の背中をさすってくれたその右手は、昨日誰の体に触れたのだろう。

 「食べないの? 私食べちゃうよ?」
 「ごっ、ごめん。ちょっと具合悪いから、もう帰っていいかな。こんな汚れたお金も、受け取れないし……」
 「お金に、綺麗も汚いもないっての。私一人じゃさみしいからディナーご一緒してよ」

 僕の袖を掴む、白くて細い指を振りほどく。握力なんて女子並みしか無いと思っていたが、夢乃さんの指は案外すぐに離れ、ファミレスのテーブルに叩きつけられる。「い、いたっ」と声を上げて、夢乃さんは指を押さえる。血が出ていたかもしれない。

 とにかく気持ちの整理がつかなかった。携帯ゲームに百万単位の金を注ぎ込む僕に比べたら、夢乃さんは賢いお金の稼ぎ方をしている。でも僕は彼女を許せそうにはない。

 「ごめん、みよしくん! お願い、ひとりにしないでよっ」

 いつもはちゃんと聞き取れる綺麗な透き通った声が聞こえない。ここで、会計で1万円を叩きつけて帰ったらカッコいいのだろうが、そんなお金なんてない。「あ、えーと、彼女が払うので」と、きょとんとした顔の店員に言い渡し、僕は店を出た。