コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 脇役にもなれない君たちへ ( No.14 )
日時: 2014/12/29 00:14
名前: みもり (ID: DYDcOtQz)
参照: ららばいららばいおやすみよ〜

 彼女じゃないじゃんとか、夢乃さんに怪我させてしまったとか、やっぱりお腹すいたからオムライス食べてくれば良かったとか思いながら帰る夜の街はとても寒かった。夢乃さんのところへ戻ろうかと思ったが、ファミレスのガラスの窓越しに見た夢乃さんは悲しそうに俯いていて、合わせる顔なんてどこにもなかった。冷静に考えると夢乃さんは家計の事情とかで、仕方なく援助交際しているのかもしれない。この辺は時給も低いし、雇ってくれるところも少ないし。僕がもし女なら、ゲーム代のために援助交際してしまうということも十分に考えられる。お金もうまく使えない、僕のほうがダメなやつなのに、なんであんな態度とっちゃったかな。傷ついたかな。

 「あーもうほんと、死にたいなあ」

 どうしようもないこんな僕は、今日も一日を無駄に過ごすどころかクラスメイトの女の子に痛い思いをさせてしまった。
 どうやって家に帰ったかなんてよく覚えていないが、次に目を覚ましたら日が昇っていて、僕は眠い頭で今日は学校を休んでどこかへ消えてしまいたいな、と考えていた。


 「おっはよう、みよしぃ。お前バンドやってみたいとか思わね? 女の子にモテるって」

 電車に乗り合わせてしまった大嫌いな先輩が、イヤホンのコードを指でくるくる回しながらこっちへ向かってくる。この先輩は笹村涼太郎といって、人の都合を考えない、すぐ人を巻き込む、自分勝手と三拍子揃った人だ。全部意味同じじゃんとか、そういうのは現在受け付けておりません。
 僕の学校の決まりとして、学校を休む時は必ず親が連絡しなければいけないというものがある。何処の誰かは知らないが、ズル休みした生徒でもいるのだろう。迷惑な話だ、昨日も母は帰ってこれなかったから、今日休むことができなかった。それだけでもイライラしているのに一番嫌いな先輩に朝から会ってしまい、僕のテンションはマイナス100からマイナス200に大絶賛降下中である。
 目覚めてから急いでシャワーを浴びてきたので、まだ少し濡れている髪が冬の風に吹かれて寒い。

 「この前言った西澤エリカっているだろ? あいつ、意外と歌上手いんだよ。しかも顔もけっこう可愛いし、あいつをボーカルにして、俺がギターでー」
 「あー、はいはい。僕ゲームしなきゃいけないから」
 「でも携帯取られたらしいじゃん。夢乃に」

 この情報網はなんなんだ。この先輩、どんだけ情報が回るのが早いんだよ。よりにもよって夢乃さんの名前を出され、僕は笹村先輩から目を反らした。夢乃さんのことは考えないようにしていたのに。

 「もう、お前しか居ないんだよ。最後のチャンスだろ、頼むって」

 こんな僕なんかより、適役がいるはずだ。笹村先輩のその上辺だけの言葉にムカつきながら、僕は開いた電車のドアから出た。
 笹村先輩は、僕を下に見てくるクラスのいじめっ子達よりずっとタチが悪いと思う。

 「わ、わかったから、もう僕に関わんないでもらえるかなっ」
 「おう! じゃあまた放課後な!」

 ほんとに、意味がわからない人である。


 絶対に入りたくなかった1年2組に入ると、廊下側の一番前の席の、絶対に会いたくなかった夢乃さんが僕の袖を引っ張った。驚いて立ち止まると、彼女は机の横にかけてあった紙袋に手を伸ばした。

 「三好くん、その、昨日はごめんなさい……」

 コートの袖をぱっと離して、にっこりと笑う夢乃さんは、昨日のバカ女の面影もない。しかし右手の指にはピンクの絆創膏が巻かれていて、僕が傷つけてしまった跡がちゃんと残っている。ごめんなさいを言うのは僕の方だと思う。

 「酔っちゃうと、私ああなっちゃうんだよね。何が恥ずかしいかって、その酔った時の行動ほとんど覚えてることなんだけど……」
 「そんな、気にしてないから大丈夫だよ……」

 本当はめちゃくちゃ気にしてた。正直僕がゲームに200万入れてることより驚いた。でも今の夢乃さんを見ていると、許してしまえそうだった。昨日のあの女は夢乃さんじゃなくて、僕が見た幻覚だ、モンスターだと勝手に一人で納得し、僕は笑顔を浮かべる。「これ、昨日のお詫び。よかったら」と夢乃さんは、薄いピンクの可愛らしい紙袋を差し出した。
 その中には美味しそうなパンがいくつかと、手作りと思われるおにぎりが数個入っていた。

 恥ずかしそうに頬を染める夢乃さんを見て、やっぱりこんな女の子が援助交際しているなんて思えなくて、僕はうまく物事を考えられないふわふわした気持ちでそれを受け取る。

 「でも、200万はさすがにやりすぎだと思うな。私もゲーム好きだから気持ちはわかるけど、ほどほどにね?」

 夢乃さんは本当に出来た人だ。「ほら、鐘なるよっ」と送り出され、僕は夢乃さんにお礼を言って自分の席に急いだ。

 ホームルーム中にこっそり確認した紙袋の中には、メロンパンとクリームパンと、ツナマヨのおにぎりと、小さな封筒が入っていた。ラブレターかなぁなんて思いながらそれを開けると、中に入っていたのは1万円札だった。