コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 脇役にもなれない君たちへ ( No.17 )
- 日時: 2014/12/30 01:10
- 名前: みもり ◆EcL409OyWY (ID: DYDcOtQz)
- 参照: 明日から夢乃さん編になります。がんばるぞい!
それからずっと夢乃さんにお金を返す機会を狙っていたのだが、彼女は休み時間になると途端に姿を消し、帰ってきたと思えば僕が絶対入っていけないような女子グループに入って談笑を始める。返すとしたら昼休みが狙い目だろう。夢乃さんはいつも教室で、柴田さんという女子とふたりでお弁当を食べているからその時に返そう。メロンパンやおにぎりは嬉しいけど、お金はさすがに受け取れない。
次の時間は体育で、それは僕が嫌いな授業ダントツぶっちぎり1位を飾る忌々しい時間だ。当てられた問題に正しく答えないと立たされる数学や、夢乃さんでも寝てしまうくらい退屈な生物も嫌いだが、座学なんて座って妄想でもしていればすぐ終わる。体育というのは周りとコミュニケーションも取らなきゃいけないし、僕みたいな運動音痴はいつもみんなに迷惑をかけてばかりなので、体育の1時間は自己嫌悪するばかりで、本当に嫌だ。だいたい僕は勉強するためにこの高校に入ったのに、なんで運動なんかしなくちゃいけないんだよ。「よっしゃあ体育だー!」と盛り上がるクラスメイトたちとは永劫に分かり合えそうにない。
「あれー? ゆのちゃん、今日は見学なの?」
甲高い声で女子が、夢乃さんの名前を呼んだ。反射的にそちらに目を向けると、揃って更衣室に移動しようとしている女子の輪のなかで、夢乃さんは「うん、ちょっとね。今日は腰が痛くて」と笑っていた。その腰痛の原因は絶対昨日エキサイトしすぎたからだと予想して、またもや僕のHPは削り取られていく。世の中には知らないほうが幸せな事があるとは聞くが、まさにそれを痛感しているなう。
夢乃さん、体育休むのか。いいなぁ、僕だって本当は保健室のベットで寝ていたい。僕も見学していたい、あ、僕も見学すればいいんじゃん。糞真面目なくらい優等生(を演じていた)僕は、体育をサボるなんて発想はいままで無かったけど、こんなところに逃げ道があったとは。
嫌な事から逃げて、何が悪いのかと思う。体育の成績は2から1になるかもしれないが、僕以外誰にも迷惑はかけていないんだし、今日くらい良いよね。ていうか僕は推定48キロ以下の、医学的に見てもハードな運動は避けたほうがいい不健康体だから、体育なんてやってられないのだ。そうと決まればすぐに休もう、僕は持っていたジャージを無理やりロッカーに押し込み、クラスの中でも比較的話しかけやすい丸メガネが特徴的な丸井くんに、「今日は具合悪いから体育休むねっ」と伝え、保健室に向かおうとして、同じく廊下に出ていた夢乃さんと目があった。
「え、み、三好くんも休むの? あっ、えーと、お金は返さなくていいからねっ!」
慌て始めた夢乃さんは、僕から逃げるようにして走っていこうとする。夢乃さんの言葉で思い出した、お金を返さなければ。でも夢乃さんは、僕から逃げるくらいお金を返して欲しくないらしい。僕のポケットの中の1万円は、貰ってしまわなければいけないのかもしれない。
「か、返さないよっ!」
僕が引きとめようとすると、夢乃さんはくるっと振り返って、「ほんと? よかったあ」と微笑んだ。可愛い。
「三好くんって、多少強引にでもしないと絶対イエスって言ってくれないタイプだと思って。やっと受け取ってくれたね」
「ごめんなさい、ゆめのさ……遠山さん。それと、あ、りがとうございます」
えっ、と夢乃さんの驚いたような声が聞こえる。「三好くんは、本当に律儀で丁寧な人だね」と、廊下の角を見つめながら言う夢乃さんは、どことなく寂しそうで、今すぐ繋ぎ止めてあげないとそのまま消えてしまいそうに思えた。
「ちゃんとご飯食べてね」
夢乃さんの頼みなら、断るわけにはいかないし、こんな弱々しい笑顔を見せられれば、拒否権なんてどこかに飛んでいく。本当は夢乃さんは、僕が苦手な「節操のない女」にカテゴライズされるのに、昨日だって僕と会う直前まで誰かの上に乗っていたのに、僕は彼女を嫌いにはなれなかった。本当に彼女には敵わない。僕が頷くと、夢乃さんは安心したように息を一つ吐いた。
「それじゃ、保健室行こっか」
クラスメイトたちが揃って体育館に向かう中、僕たちふたりだけ別な場所に向かう妙な背徳感に胸が高鳴る。
お金があれば、僕は彼女の全てを知ることが出来るだろうか。夢乃さんを知っている男が本格的に妬ましくなってきたのだが、この気持ちをどこにやればいいだろうか。ううん、僕はそんなお金で割り切った関係を望んでいるわけじゃなくて、純粋に彼女と仲良くなりたいだけで。
少し前を歩く夢乃さんは、「どうしたの、もしかして具合悪い?」と顔を覗き込んでくる。
こんな女の子が、どこの誰ともつかない男相手に毎日嬌声を上げているのがとてつもなく許せない。
僕は彼女の援助交際を辞めさせたい、切実にそう思った。