コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 脇役にもなれない君たちへ ( No.18 )
- 日時: 2014/12/31 04:07
- 名前: みもり ◆EcL409OyWY (ID: DYDcOtQz)
「だ、だからさ。その、辞めてほしいなって……」
三好くんは変な子だと思う。
保健室のベットに座って暇を潰していたら、いきなり私の前まで来て、まるで一世一代の告白でもするように言うのだから。
校庭ではうちのクラスの男子たちが、おっしゃばっちこーい、なんて声を上げている。女子は体育館かな。まだじわじわと痛む腰を抑えながら、真冬だというのに頬を真っ赤に染めた三好くんを見上げた。ええと、どういう事かな。同い年くらいの男の子とふたりっきりだなんて初めてで、非常に心臓に悪い。きっと私の顔も真っ赤なんだろう。
彼が言いたいことは、ちゃんとわかっている。
でもやめたくてやめられるなら、とっくにやめてるよ。君が携帯ゲームにお金を注ぎ込むのと、一緒だよ。だから、もう私のことをそんな目で見ないで欲しいな。
私は、本当にバカでアホで、聞き分けがなくて、自制心がなくて、人の気持ちもわからない、皆に迷惑ばかりかけている、正真正銘のクズなんだから、三好くんとは、一緒にいるのすら申し訳無くなるよ。
始めて援助交際をしたのは、中2の時だった。その時好きだったアニメの、ヒロインの魔法少女の衣装が可愛くて、欲しいと思った。でもそんな事、お母さんにもお父さんにも言えなかった。中学生にもなってアニメの女の子の衣装が欲しいだなんて、恥ずかしいと思って。お小遣いを貯めれば購入も夢ではなかったんだけど、私は我慢ができない馬鹿だから、毎日学校帰りにショーウィンドウを眺めていた。今はもうそのお店は無いけれど、確かあのネオン街の、今はマックがあるあたりにあったと思う。
夏休みも終わりに近い、ある日の事だった。その日もずっと、キラキラしてて、まるで妖精みたいに可愛いその衣装を眺め続けていた。ふいに肩を叩かれて振り返ると、まだ昼だというのにスーツ姿のサラリーマンがいて。「その服、買ってあげようか」と私に聞いてきた。
知らない人に付いていってはいけないなんて、小学生でもわかる。でも私は自制心がないから、そのサラリーマンにやすやすと付いていった。私の初めてが散らされたのは、ネオン街の公園のトイレである。こんな名前も知らないおじさんに捧げてしまっただなんて、今思い出しても窓から飛び降りたくなる。正直痛いだけだった。でもそのサラリーマンは、終わったあと私に5万円を投げつけて去っていった。5万円もあれば、あの衣装は5個買える。中2にして私の金銭感覚は完全に狂ってしまったわけだ。
それからと言うものの、私は夜な夜な出歩いてスーツ姿のおじさんに声をかけて歩いた。そのおかげで可愛い服も沢山買えたから、嬉しかったし罪悪感もなかった。買ったキラキラでふりふりした服を着て夜の街を歩く中学生の私は、あっという間に援助交際をするおじさんたちの間で話題になって、良い時は月30万くらい稼いだ。本当は痛いしなにも気持ちよくないし、どうして大人はこんな事するんだろうって思っていた。
中3に上がったとき、私のしている行為は犯罪に当たると知った。しかも刑罰をくらうのは、私じゃなくて相手の方だということも知った。今まで厳しい両親の元、真っ当に育ってきたから、犯罪なんて遠い話だったのに、それは一気に私の身に降りかかる。辞めなきゃいけない。私のしていることは悪いことだから、もう二度としてはいけない。それなのに、私の携帯には連絡が入り続ける。「ゆのちゃん、次いつ会えるの?」と。ううん、会っちゃいけない。でも新作のあの財布が欲しい。服も欲しい。これで最後、そう思いながら続けてきた援助交際。気が付いたら私は高校1年生になっていた。
私はもともと引っ込み思案で、人と話すのも苦手だから、今はお酒を飲んでいないとまともに仕事ができない。援助交際に、未成年飲酒。本物のクズだと思う。
私が援助交際をしていることは、きっと何人も知っていると思う。それでもクラスの子達は分け隔てなく接してくれるから、本当に心の広い人たちだ。本当はみんな裏で私のことを悪く思っているだろうし、寄ってくる男子もだいたい「それ」目当てなんだけど。体しか価値がないなんてもう私は死んだほうがいい。
でも三好くんは、私のことを対等なクラスメイトとして扱ってくれた。こんな汚れた私なのに、話しかければ嬉しそうな表情をするし、優しくすればちょっと遠慮するし、褒めれば謙遜する。中身のない愛しか知らない私にとっては新鮮で、三好くんと話すのは楽しかった。なんで三好くんは、援助交際なんかしている、金銭感覚がぶっ飛んでいる私なんかにも優しいのだろう。その理由を、昨日知った。
三好くんは携帯パズルゲームに200万近くの金額を投げていた。なんとなく見てしまった携帯に写ったその数字に、思わず電車の中で変な声が出てしまったのを覚えている。彼ももしかしたら援助交際しているのかな。いやいや、三好くんは男の子だよ。お小遣いがたんまりもらえるご家庭のご子息様なのだろうか。その割にはご飯もちゃんと食べていないようだけど。きっと彼は一人暮らしか何かで、仕送りのお金をほとんどゲームに使っているんだと思う。
そして昨日の夜。なにがなんだかよくわからないまま、私は三好くんにご飯をご馳走した。といっても、一口も食べなかったのだが。三好くんがどんどん絶望的な表情になっていくのが面白くて、からかい続けてたら怒って店を出ちゃったんだっけ。ああもう、私の馬鹿。今すぐ首を吊りたい。そんな今、私は三好くんと保健室でふたりきり。こんなことになるなら、ちゃんと体育に参加するんだった。
episodeC 「汚れた夜に銃声を」
「……援助交際だよっ。や、やめないの?」
「や、やめるって……そんな今更……」
三好くんは、今まで一回も見たことのない表情をしている。三好くんを見るのは楽しいけど、今はただ焦るだけだ。
携帯の電源を切り忘れたり、ゲームにお金を入れすぎてごはんが食べられないほどになったりするあたり、三好くんは後先を考えないで行動するところがある。だから今のこれも、きっと一時的な思いで話しているのだろう。私は得意の作り笑いを浮かべて、三好くんの男子にしては大きな瞳を見つめた。
「でも、ありがとうね。こんな私に、そんなこと言ってくれて」
本当は笑顔なんて浮かべていられない。今すぐ誰かに泣きつきたい。震える声を隠すので、私は精一杯だった。