コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 脇役にもなれない君たちへ ( No.19 )
日時: 2014/12/30 21:51
名前: みもり ◆EcL409OyWY (ID: DYDcOtQz)
参照: 2014年、ありがとうございました。明日はたぶん更新できません。

 「そういえばね、三好くん。今日は雪が降るらしいんだよ」

 話題の転換を試みた私は、気が付いたらそんな言葉で場を乗り切ろうとしていた。こんなの、思考回路が単純な三好くんでも「話題を逸らそうとしている」とわかってしまう。嘘をつくのは、得意だったはずなのに。なんかもう、三好くんはことごとく私のペースを崩してくるから困る。

 「そーだね。今日はきっと冷えるから、まっすぐおうちに帰ったほうが良いんじゃ、ないかなあって……」
 「……今週の金曜ロードショーは、ラピュタらしいよ?」
 「へ、へえ! そうなんだ! 遠山さんも、たまには家族と映画なんか見るのもいいと……」

 どうしよう、いくら話題を逸らしても、遠まわしに「援助交際なんかしないで家に帰れ」と言ってくる三好くんは、ゲームで、何回話しかけてもずっと同じことを話し続けるNPCのようだ。テストの順位の数字は私より一桁数が多いのに、意外と頭が回るんだなあ。困っている私を見てはっと我に帰った三好くんは、「あっ、ごめん、僕なんかが偉そうに」と謝り始めた。
 本当にそうだと思う。よく考えたら援助交際なんて私の勝手じゃないか。相手のおじさんには犯罪をさせてしまっているけれど、三好くんにはなんにも迷惑をかけていないじゃないか。なんでそこまでして辞めさせたがるんだろう。私のことを思って言ってくれているならば、ありがたいなあって思わなければいけないのかもしれないが、残念ながら私は人の気持ちを汲み取れない馬鹿なので、私の頭の上にはハテナマークが10個ぐらい浮かんで消えないのである。

 「なんで、やめなきゃいけないの?」

 ベットに座って三好くんを見上げる。
 三好くんはちょっと困ったように顔を背け、次のように述べた。

 「そ、そんなの、僕が嫌だからに決まってんじゃん……!」


 一瞬何を言っているのかわからなかった。相当間抜けな表情をしていたことだろう。
 ななな、なんですかそれは。告白のつもりですか。頭の上のハテナマークが、沸騰してどこかに飛んでいく。どうしよう、好きだよとか、愛してるとか言われるのは慣れてるけど、こんなふうに言われたのは初めてだよ。恥ずかしくて、白いカーテンを引いて、顔を隠してしまいたいけど、三好くんも私と同じで恥ずかしそうに俯いていたから、私はもうちょっとだけ見ていたいなあって思って、カーテンを掴んだまま硬直していた。

 沈黙が流れる。まるで、少女漫画みたい。援助交際なんかしているダメ人間の私が、こんなにドキドキできる青春みたいなものを感じられるとは夢にも思わなかった。うるさい心臓の音が誰にも聞こえないように願う。このまま学校も、私が援助交際なんかしてることも全部消しちゃって、ずっとこのままなら幸せだな。でも現実は非情で、がらっと開いたドアの音に「う、うわぁぁ」と二人一緒に驚く。

 「あ、あのぉ、石鹸貰いに来たんですけど……」

 ばさっとカーテンを離して、入ってきた人の顔を見る。スカーフの色は赤で、膝下のスカートが真面目そうな、2年生の先輩だった。
 私と三好くんを見て、微笑をたたえて「あ、遠山さんと、三好くん。奇遇ですね」と言うその先輩には見覚えがあって、頑張って思い出していると、なんだかこの先輩、花屋で見たことがあるような……

 「西澤さん、なんでここにいるんですかっ」

 この先輩と、知り合いと思われる三好くんは、「西澤さん」と呼ばれた先輩を見て言う。今は授業中だからまさか人が入ってくるとは思わなかった。今は別の意味でドキドキしている。

 「ああ、ごめんなさい。ええっと、今の時間自習で、暇だったので。今日はですねえ、保健委員の皆木さんがお休みなので、私が代理なんです。なんでも皆木さん彼氏と別れて、体調を崩したとか……」

 えへへ、困った話ですよねえと西澤さんは言った。彼氏と別れたくらいで休むなんて、どんだけ近頃の高校生はメンタルが弱いんだ。どうせ2ヶ月後には、また新しい男を横に連れているくせに。でも援助交際している私はそんな頭の軽い女子よりずっとダメだし、三好くんも「それはお気の毒、でしたね」と言っているので、私は何も言わないことにした。

 「おふたりはどうされたんですか? 風邪、でしょうか?」
 「いいえ、サボりです。どっちも」

 私が笑って答えると、三好くんはなんだか不服そうだったけど、西澤さんは納得したようで、「邪魔しちゃったならすいませんっ」と頭を下げた。

 ああ、思い出した。たしかこの人は、謝るのが大好きな花屋の店員さんだ。私が前に「青い薔薇が欲しい」と花屋に行ったとき、まるでヘドバンでもするように謝られたんだっけ。謝ればなんでも許される彼女は、私にとって羨ましくてしょうがない。口では素直に「ごめんなさい」というけれど、きっと西澤さんは心の底では、謝れば許してもらえるからその場しのぎで適当に謝っておこうと思っている。それでも私よりずっと清楚で純粋で可愛いから、三好くんはきっと、こんな子と将来交際したりするのかなと思う。

 「でも、風邪じゃなくて良かったです。今日雪も降るみたいだし、冷えないようにしてくださいね」

 西澤さんはそう残して、慣れた手つきで石鹸を3つ手に取って、私たちに一礼して保健室を後にした。こんな細かい気配りができるところも、女子力というか、凄いなと素直に思ってしまう。私とは真逆の西澤さんに完全に負けた気がして、私は保健室のふかふかのベットから立ち上がり、気を紛らわすために背伸びをした。