コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 脇役にもなれない君たちへ ( No.20 )
- 日時: 2015/01/01 22:22
- 名前: みもり ◆EcL409OyWY (ID: DYDcOtQz)
- 参照: あけましておめでとうございます。
「……行っちゃったね、西澤さん」
「……うん」
再び訪れる沈黙のせいで、緊張が帰ってくる。西澤さんも、ずっと居てくればよかったのに。いや、ずっとは困るかな。ポケットに手を伸ばして、「あ、携帯ないんだった」と言う三好くんが苦笑いする。
ちょっとでも暇になると、携帯を取り出して弄り始めるのは現代人の特徴だというけれど、さすがに女の子と二人きりっていう空間でそれをやるのは如何なものなのか。まあ、昨日あんなにバカみたいな醜態を晒しちゃったし、もう「女の子」として見ていないのかもしれないけど、どうしても三好くんはそんな思いを露骨に出してくる人には見えないので、私が推測するに、緊張してるんだろうな。こんな私相手でも対等に見てくれてる気がして、ありがたいというか、嬉しいというか。
「……くしゅん」
「わ、遠山さん、大丈夫? 風邪、とか?」
私がちょっとくしゃみしただけで、過剰に慌てて心配しだす三好くんは、「ティッシュいる?」って、ポケットティッシュを取り出した。私はハンカチと、櫛と鏡と薬用リップしか携帯していないというのに、なんで私の周りはこう女子力が高いのだろう。笑顔でそれを受け取るけど、水面下では対抗心ばっかりだよ。
「西澤さんもああ言ってたし、風邪引かないようにね」
私より三好くんのほうが体調的には危ないじゃない。
……でも、なんだか今日は体が重い。頭も痛いし、三好くんの若干上ずった高い声もうまく聞こえない。ああ、これは完璧に風邪じゃないか。さっきドキドキしすぎたせいで、おかしくなっちゃったんだよ。熱だってあるかもしれないし、腰は相変わらず痛いし、こんな日はもう全部投げ出したくなるな。
「と、遠山さんほんとに大丈夫……? なんか、熱ありそうだなって……」
「大丈夫だよ。……今日は、仕事やすまなきゃなー……」
私の「仕事」を知っている三好くんは、安心したような、それでいて心配そうな表情になる。でもべつに三好くんの為に言ったわけじゃなくて、本心だった。自覚したら急に辛くなってきた。頭が痛い、関節が痛い、腰も痛い、体がふらふらする、視界が定まらない。早退するまでではないけど、これは確実に夜高熱が出るパターンだ。今日は、仕事できない。休もう。
気が付けばもう体育が終わるまであと5分になっていた。さて、今日は7時間授業だけど、仕事しなくていいから頑張れる。その時、同じく保健室を出る準備を始めた三好くんが唐突に「保健室利用カード書かなきゃ」と言い出した。そんなの別に書かなくていいじゃんと思うのだが、この人はどこまでも真面目なようだ。
1年2組、三好晴賀のカードを取り出して、置いてあったシャーペンを走らせる三好くんに続き、私も自分のカードを探そうと思ったのだが、なぜかどこにもなかった。保健室なんて普段利用しないから、最初から作っていないのかもしれない。
しかし三好くんは字が綺麗である。習字でも習ってたのかな。「……と、遠山さん? どうしたの……?」と、ふいに顔を上げて聞かれたので、私は何でもないふりをして誤魔化したけど、また新しいことを知っちゃったなあなんて、心の中は浮かれていた。熱が上がりそうだな。
その日の帰り道、電車が来るまで30分くらい時間があったので、ネオン街のマックの近くにある100円ショップを見て頭痛をごまかしていた。ノートなんかが陳列してある場所に、ピンクと水色の可愛らしいカバーがかけられた冊子を見つけ、手に取ってみる。
「……家計簿?」
家計簿というよりは、ただのお小遣い帳。「援助交際なんか、やめなよっ」と言った昼間の三好くんを思い出して、笑いをこらえる。私にやめろなんて言う前に、まずはゲームにお金を注ぎ込むのをやめなさいっつーの。
でも三好くんがゲームにお金を入れるのも、分かる気がする。彼はきっと、一番じゃなきゃ嫌なんだ。完璧主義者とかいうやつなんだ。勉強だとか運動だとかで、一番になれないから、お金を入れれば一番になれるゲームに入れ込んだんだろう。だって三好くんって、いつもはあんな態度だけど絶対心の中では「誰も僕の凄さを理解してくれない」って本気で思ってそうだもん。馬鹿な話だと思う。
私はお小遣い帳を2つ購入し、冬の街へ出た。