コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 脇役にもなれない君たちへ ( No.22 )
日時: 2015/01/03 19:23
名前: みもり ◆EcL409OyWY (ID: DYDcOtQz)
参照: 夢乃は私と同い年なので、等身大の16歳の女の子の気持ちがうまく表現できたらいいなと思います。

 ネオン街の真ん中で、人目も憚らず泣く私が落ち着いたのを見計らって、三好くんは私を立たせてくれた。何回か携帯のライトを浴びた気がする。これだから現代人は嫌だ、困っている人を見つけると、助ける前にまずSNSにつぶやこうとするんだもん。

 「……た、助けてくれて、ありがとう。でもなんでここに居るの?」

 三好くんの家は確か、このネオン街からは遠かった気がする。バスと電車で登校している、なんて聞いたことがあったな。

 「コンビニで、バイトでもしようかなって……100均に履歴書買いに行こうと思って歩いてたら、偶然見かけちゃって。迷惑だったら、ごめん」
 「迷惑なわけないじゃない。あ、ありがと」

 恥ずかしそうに笑う三好くんを見ていると、また泣けてきそうだった。それをなんとか押し込んで、笑顔を作る。……コンビニバイトか。三好くんには、向いていないような気がする。だってあれ、意外と覚えること多いし。タバコの銘柄だったり商品管理だったり。それに、クレーマーも多いし時給も安い。西澤さんの花屋にでも雇ってもらえばいいんじゃないかな。

 また頭が痛くなってきた。風邪だ。早く帰らなければいけないのは分かっているけれど、ここで一人になったら、またあのおじさんに襲われそうで怖かった。三好くんもそれは同じなようで、「ファミレスくらいなら、僕お金出せるよっ」と私に選択肢を3つ提供してきた。ココスか、ガストか、バーミヤン。聞いたことがある三択だな、と思いながらガストを選択し、私たちは並んで歩きだした。

 ……お金出せるよなんて言うけどね、それ、私のお金でしょ。
 空からは、はらはらと粉雪が落ちてきていた。



 「えーと、ハンバーグと、オムライス、ください」

 大学生くらいの明るそうな女性が注文を取りに来て、三好くんはつっかかりながらメニューを注文する。ただのオムライスだから良かったものの、「熟成デミグラソースのハヤシライス温泉卵乗せ〜パセリとチーズを添えて〜」みたいなメニューだったらどうするつもりだったのだろう。滑舌は悪い方ではないけれど、ファミレスでまともに注文できない三好くんが、さっき私を助けてくれたことが今でも信じられない。
 店員さんが、笑顔で去っていく。

 「……で、援助交際、やめる気になったりした……?」

 三好くんがちゃんと告白してくれたら、辞めるかな。そんな返しをするほど私は悪女になりきれない。でも、今日みたいな思いは二度としたくない。このままでは私は、さっきも言ったとおりキャバとか、風俗とか、そんなのになってしまうだろう。私は魔法少女にならなければいけない。援助交際なんかしてる場合じゃない。小さな努力が、大きな花を咲かせる————なんて昔好きだったセーラームーンも言ってたわね。
 それに、こんなに私を気にかけてくれる、三好くんを裏切れない。彼は携帯ゲームに数百万単位のお金を注ぎ込むアホだけど、いい方に捉えれば、それは一途ってことじゃないか。むしろ長所だよ。でも200万は引くよ。

 「……やめるよ」

 三好くんは顔を上げて、とっても嬉しそうに笑った。ここまでわかりやすい人は他にいないな。「そっか、だよね、よかった、ほんとによかった」なんて言うけど、私はそれを軽く受け流して、かばんからさっき購入した物が入っているビニール袋を取り出した。

 「私、援助交際やめる。節操のない付き合いも、もうしないよ。だから、三好くんもやめよ、課金」

 言い換えれば、「ゲームと私どっちが大事なの?」っていう、めんどくさい女の質問に近いかもしれない。「課金」というワードを出され、三好くんは少し困って、「えっ、僕が?」と首を傾けた。私はビニール袋から、まるで小学生が使うようなデザインのお小遣い帳を出す。水色の方を自分の座席に置き、ピンクの方を三好くんに差し出した。


 「これからは、私が三好くんのお金を管理するっ。そして、三好くんはこれから私のお金を管理する。……どう? 完璧でしょ?」

 三好くんは、メニューの「季節限定! いちごクレープ」に視線を落とした。課金を辞める自信がないのはわかってる。私だって援助交際を辞め切れる自信なんかないよ。
 お金もうまく使えないバカ同士、今はうまくやっていこうよ。

 三好くんは、おずおずとピンクのお小遣い帳を受け取った。