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Re: 脇役にもなれない君たちへ ( No.23 )
日時: 2015/01/04 01:27
名前: みもり ◆EcL409OyWY (ID: DYDcOtQz)

 運ばれてきたオムライスを美味しそうに食べる三好くんを見ながら、ハンバーグを切り分ける。「あっ、夢乃さん風邪だったよね。食べきれなかったら、僕が食べるからっ」と三好くんは笑う。食い意地を張りすぎだと思う。そんなところも、私は嫌いではないのだけれど。三好くんも、本当はいっぱいご飯が食べたかったに違いない。ああ、ゲームのせいでろくにご飯も食べられなかったなんて可哀想。ソーシャルゲームは人を狂わせるんだなあと、しみじみと感じています。

 「私のなんか食べたら、風邪移っちゃうよ」
 「い、いやっ、そんなの全然気にしないし! むしろ欲しいって……あ、なんでもない」

 一口サイズに分けたハンバーグを口に入れ、水を飲む。「ごっくん」する時に、喉が痛んだ。これはかなり酷いレベルの風邪だ、明日は学校を休みたいな。
 半分以上なくなった向かいのオムライスをチラ見する。食べ方が非常に丁寧。ちくしょう、負けた。

 「三好くんってさ、なんでゲームに課金しようって思ったの?」
 「……っえ、なんでだろ? ……他に趣味がないから、かな」

 ご丁寧に口の中のものを飲み込んでから、三好くんは言う。そして私に、「逆に夢乃さんは、どうして援助交際なんかしようと思ったの?」みたいな事を聞いてきた。言い方が遠まわし過ぎて解りそこねるところだった。いくら食事中とはいえ、「援助交際」くらいはOKワードじゃないのか。え? 違う? ごめんなさい。

 「笑ったりしない?」
 「もちろん」

 魔法少女になりたいからだよ。そんな事言ったら三好くんも笑うかな。でも、私は真剣だった。5歳の頃から私の夢は変わらない。第一希望は、ずっと魔法少女のままだ。第二希望は市役所で働くことで、第三希望は女優。三好くんはなんとなく中学生くらいまでサンタクロースを信じていそうなイメージがあったので、(我ながら勝手すぎるイメージだと思う)私はオムライスを口に運ぶ三好くんに意を決して言ってみることにした。


 「ま、魔法少女になりたいの……!」


 オムライスの入った皿が、がちゃんと音を立てた。
 口元を抑えて、震えている三好くんが、慌てて水を手に取って一気に飲み干す。げほげほと咳き込んで、涙目で私を見る。

 ……さいってい。わかってくれると思ったのに。

 「ゆ、夢乃さんっ、いま、食べてるから、笑わせな——」
 「笑わせてなんかないもんっ! 私、ずっと魔法少女になりたかったのっ! 脇役で終わる人生なんて、ぜったいぜったいぜったい嫌!」

 三好くんだってそうでしょ、一番になりたくて、ゲームにお金入れてるんでしょっ。一度しかない人生なんだから、人と違うことをしたいって思うことは、普通じゃない。遠山夢乃として生まれた以上、遠山夢乃として、この世界で思いっきり暴れてやるんだから。革命を起こしてやるんだから。この世界を変えてやるんだから。三好くんなんかには、わからないでしょうね。

 「……魔法少女か。いいんじゃないかなぁ」
 「ぜったい引いてるでしょ。200万も課金してる分際で何言ってんのよ」
 「ごめん……」

 ああ、今のですっごい疲れた。何人かの客がこっちを見ている。そりゃあ突然立ち上がって「魔法少女になりたいの」なんて言い出す高校生の女の子を見たら、誰しもそっちを向くよね。痛い子ですよ、わかってますよ。

 三好くんは、まだ肩を震わせて笑っている。それを見ていると、なんだか私も笑えてきた。


 こんなに感情的になったのはいつ以来かな。クラスでも、「援助交際をしている私はみんなに悪く思われている」っていう意識が離れなくて、おとなしく、人当たりがいいように振舞うしかなかった。仕事でも、おじさんたちの気を損ねないように気ばっかり使っていた。家でも「どうか援助交際がバレませんように」って祈って、思えば私は一時も心が休まる時がなかった。誰かにこんな夢を語る日がくるなんて思いもしなかった。

 私は、本当にバカでアホで、聞き分けがなくて、自制心がなくて、人の気持ちがわからない、みんなに迷惑ばかりかけている、正真正銘のクズだ。でも、援助交際を辞めたら、普通の女の子になれるのかな。いや、普通の女の子じゃ物足りない。魔法少女になるのだ。世界に革命を起こすのだ。援助交際なんて、もうやっていられない。さよならネオン街、とびっきりの銃声をぶちこんでやるもん。

 私のことを笑った三好くんを、いつか絶対見返してやるんだから。それまでは、おとなしく私に金銭管理させられていてください。

 「……もうそろそろ、笑うのやめてよね」

 私はそう言って、もうすっかり冷めてしまったハンバーグにフォークを刺した。