コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 脇役にもなれない君たちへ ( No.24 )
日時: 2015/01/04 18:16
名前: みもり ◆EcL409OyWY (ID: DYDcOtQz)


 月に代わって、お仕置きよ。そんなフレーズに憧れるのは、大抵10歳にも満たない女の子だ。16歳にもなって、魔法や奇跡を追い求め、ネオン街をふらつく私に、ようやく制裁が下りたらしい。会計で1万円を出した三好くんの横で、私は月5千円のお小遣いでどうやって生きていこうかな、と考えていた。あまり沢山ものを買いすぎると家族にバレると思って、密かに財布に忍ばせていたこの札束で頑張るしかないのかな。

 店を出たとき、「家まで送るよ」って言った三好くんは、いつからそんなに生意気になったのだろう。雪も降ってて寒いし、三好くんは絶対夜道を一人で歩いてたらお金とか取られるタイプだと思う。もう暗くなり始めているからここでお別れしたほうがいいと思うんだけどな。そんな私の思いとは裏腹に、体感5分ほどの話し合いの末に、「駅まで一緒に行こう」って事になった。

 文化祭はできるだけ何もしたくないという話、高校体育の必要性についての話、三好くんがこの前のテストで現国と英語が0点だった話(白紙で出したらしい)をしているうちに、駅が見えてきた。この駅は無駄に広くて幼い頃はよく迷ったな。しかも治安の悪いネオン街が近くにあるから、暴力事件や窃盗が多発している。酷いものだと、私が生まれるちょっと前くらいに、コインロッカーに赤ちゃんが捨てられていたんだとか。やっぱり、一人で来なくてよかった。

 駅のライトが、石造りの道を照らす。私は気になっていたことを聞いてみることにした。

 「三好くんって、サンタクロースいつまで信じてた?」
 「んーと……5歳かな」

 随分現実的な子供だな、5歳の三好晴賀。お父さんもお母さんももう少しくらい騙したかったんじゃないのかな、私なんて小5まで信じてたからね。朝起きると枕元にプレゼントが置いてあるのが奇跡みたいで、12月に入るとクリスマスが楽しみで楽しみで。今やもう、クリスマスなんてカップルが目に入って嫌になるだけなんだけど。そんなことを言ったらまた笑われそうだったので、私は何も言わなかった。

 定期を使って改札を抜け、私たち以外に数人しかいない、肌寒いホームに出る。電車が来るまでもう少し。「あと10日くらいで、冬休みだね」と私は言う。三好くんの携帯を返すのは13日後だから、携帯を没収されたまま冬休みに入ることになる。いつだってスマホに目を落としている現代っ子な私たちにとって携帯を取られるなんてことは死刑宣告に近い。ましてやゲーム廃人の彼からしたらもう、想像もできないくらい辛いんじゃないかな。スクールバックの中に入っている三好くんの携帯がやけに重い気がする。

 「……今までのお礼。誰にも言ったらダメだよ」

 私は風紀委員失格だ。バックの中の、一番わかりやすい場所に入れてあった携帯を持って、歩き出す。駅のホームに佇むタッチパネル式の自販機を物珍しそうに見ていた三好くんは、こっちを向いて、「え、なにかな」なんて呑気に困っている。

 ゼロ距離という言葉には、ロマンを感じる。でもお酒の入っていない私はそこまで積極的にはなれない。ここまで近付いたのなら、キスの一つでもすればいいのかもしれないけど、今はこの中学生のへたくそな恋愛みたいな距離感が私たちにとってはベストだと気付いた。
 三好くんのコートのポケットに、返して欲しくて仕方なかったであろう携帯を入れる。

 「えっ、けいた……え、いいの?」
 「誰かに言ったら、もう二度と課金させてあげないんだから」

 絡まれた私を助けてくれて、ご飯代を出してくれて、私をちゃんと更正させてくれて、こんなにいっぱいドキドキさせてもらったお礼にしては安いものだと思う。
 嬉しさ40パーセント、驚き30パーセントくらいの顔で、三好くんは、ありがとう、って言うからずるいな。残りの30パーセントは、うーん、なんだろう。これからわかっていけたらいいかな。

 「課金するなら一ヶ月一万円までねっ。私がちゃんと、見張ってるから」
 「……夢乃さんも、え、援交しないでよ」
 「わかってるよっ! これからは、ちゃんと、まっすぐ生きるもん」

 そしていつか、三好くんの右手を握って歩くの。
 電車が来る。この時間は降りる人なんて居ないから私は一番に乗り込んで、ボタンを押してドアを閉めた。本当は帰りたくないけど、今は笑顔じゃなきゃいけない場面だ。

 息も絶え絶えで追いかけてきた三好くんが、私に手を振っている。

 急に今日あったことがいろいろこみ上げてきて、辛くて、胸が締め付けられて、少しだけ嬉しい、そんな気持ちになる。
 これも全部、風邪のせいだな。今日は早く寝たいけど、寝られそうにもないよ。

 揺れる電車の中で、私は誰にも聞こえないように、「ありがと」と呟いた。