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Re: 脇役にもなれない君たちへ ( No.27 )
日時: 2015/01/08 17:53
名前: みもり ◆EcL409OyWY (ID: DYDcOtQz)

 「今日、休みだったんだよ」

 揺れる電車の中で、三好は唐突にそんなことを言った。飽きたのか、はたまたポイントが尽きたのか、さっきまで映し出されていたゲーム画面は暗転している。
 主語がないので誰が休みなのかはさっぱり解らない。心当たりといえば、今日の朝夢乃を見なかったぐらいだ。いつもは俺と同じ、遅刻ギリギリの時間に眠そうに通学路を歩いているのだが。

 「……夢乃が?」
 「僕のせいかなって……」

 なんでそうなるんだよ、としか言えなかった。三好はコミュニケーション力が足りないと思う。もう少しうまく会話して欲しいし、さっさとこの話を切り上げて文化祭の話をしたいのだが、三好と俺のご近所さん遠山夢乃の関係は傍観者の俺からしたらとても面白いので積極的に首を突っ込んでいきたいのだ。
 どうやらエリカによると、この三好という奴は夢乃と不自然なくらい仲が良いらしい。この前は一緒に保健室でサボってたみたいだしな。はい怪しい、確定。で、何が面白いかというと三好は夢乃が援助交際していることなんか知らないし、夢乃は三好がそのわけのわからないゲームに大金を注ぎ入れていることを知らない、ということだ。どんな昼ドラだよ。まさか身近でこんな事が起こるとは思わなかったので、俺もその脇役の一人として乱入したいと思った。

 三好に話を聞くと、昨日の放課後一緒にファミレスに行ったせいで、夢乃の風邪が悪化してしまったかもしれない、という事だった。馬鹿だな、普通ファミレスまで誘えたら自分の家に連れ込むだろ。というか、もうそんな仲まで発展していたとは。俺が2年の時ツイッターで知り合ったはるかという女は、やたらガードが硬かったからデートに誘うのでさえ半年かかったんだぞ。
 そんな武勇伝を語っても三好はたぶんなんの興味も無いと思うので、俺はずっと前から気になっていた課金額を聞いてみた。かなりのゲーマーだから、5万円ほど入れていてもおかしくない。

 「でさぁ、お前そのゲームに何円入れてるんだっけ?」
 「……20万くらいかな」

 俺の予想は見事に外れたようだ。にじゅうまん。それは俺のお年玉20年分にあたる。やっぱりこいつは、本物の馬鹿だ。データにそんな大金注ぎやがって。20万もあったら、俺なら旅行に行く。クラスの友達とは前行ったので、今度はエリカを誘おうと思う。二人で行けば勘違いされそうだから夢乃も連れて行こう。慈悲で三好も誘ってやるよ。
 20万という金額に驚いて言葉も出ない俺を、複雑な表情で三好は見る。「20万なんて別に普通だよ、世の中では百万単位で課金してる人だっているよ」と言うが、ゲームに百万単位はもはや病気だと思う。将来は三好もそうなってしまうのだろうか。
 ……いやはや、携帯ゲームに20万の三好くんと、援助交際で稼いでる夢乃さん。悪いけど絶対うまくいかないだろ。もしこのままいって、将来娘が生まれたとして、援助交際で稼いだお金で携帯ゲームに課金するろくでもない娘になるのが目に見えている。こいつらの子供なら、顔だけは可愛くなりそうだし。


 けっこう大きな駅で三好が降りてからも、俺は電車に乗っていなくてはいけない。俺の家は学校からは遠い。学校の周りにはあのネオン街とか娯楽施設も多いのだが、少し離れたらここは完全に田舎だ。流れていく景色からも建物が徐々に減っていく。
 ふと目に入った電車の広告は、大学の案内だった。

 その大学に入っただけで、将来が約束されるほど世の中甘くないんだよな、と思った。俺が約束された将来で収まる程度の人間じゃないことは自分が一番よくわかっていたはずなのに。
 携帯を見ると、エリカから連絡が入っていた。「ローソンのキャンペーンでもらえるお皿が可愛いので、シールを見かけたら集めてほしい」という内容だった。俺は急遽近所のローソンに行くという予定を追加し、人も次々減っていく電車の中で愛用のイヤホンを取り出した。