コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 脇役にもなれない君たちへ ( No.31 )
日時: 2015/01/10 18:48
名前: みもり ◆EcL409OyWY (ID: DYDcOtQz)
参照: めっちゃ陰鬱な話書いてすいません…

 どうして「はるか」という名前のやつは、学校の屋上から飛び降りようとするのだろうか。いや、こう言ってしまえば全国のはるかさんに申し訳ないな。はるかははるかでも、三好の方のはるかと俺は、昼休みの、人通りの少ない廊下で取っ組み合いの喧嘩になっていた。

 昼に偶然出会った三好に、それとなく夢乃の事を聞いてみたら、三好もなんとなくわかっていたらしい。不安そうな顔で「今日は朝から夢乃さんがおかしくて、もしかしたらなんか隠してるかもしれない」と言われたので、俺は夢乃の為にもこの前の会話を全部教えたのだ。それがまずい判断だったんだと思う。話し終える頃には、夢乃さんが僕を裏切ったんだ、だなんて言ってこの世の終わりみたいな顔をしている三好が居た。軽率な発言を控えると昨日決めたばっかりだったのにな。夢乃の援助交際依存性と一緒で、長年体に染み付いた習慣はそう簡単に消えたりしないらしい。


 「もう僕のことなんかほっといてよ!」
 「あいつはもう4年くらいエンコーしてるんだぞ、すぐやめられるわけ無いだろ!」
 「で、でも1日も約束守らないなんて絶対おかしいじゃん、僕とのことは遊びだったんだよ!」

 屋上の方へ走り出す三好を取り押さえるも、火事場の馬鹿力だとかなんかそんな感じの魔法パワーのせいで俺のほうが床に倒れ込みそうになる。それより、「僕とのことは遊びだったんだよ」か。やっぱり昼ドラじゃないか。しかし昼ドラと違うのは、屋上への鍵なんか空いていないということだった。がちゃがちゃとドアノブを回すも、ドアは微動だにしない。1年以上前とはいえ、同じ市内ではるかの件もあったからこういうところの取締はしっかりしているみたいだ。

 三好のポケットから何か落ちたのを見て、俺は咄嗟に拾い上げる。慌てて三好はその紙切れを俺から取り上げようとするけど、俺が少し腕を上げたら、三好の身長ではいくらジャンプしたとしても届かない。どうやらコンビニのレシートらしいそれを見てみると、今日の朝8時にメロンパンとカフェオレというとても美味しそうな物を買っていた。会計は5000円を超えていて……おかしい。なんでメロンパンとカフェオレで5000円もするんだよ。

 「かっ、返せって——」
 「カード代か……」

 呆れて言葉も出ない。口を開いたら反吐が出そうだ。

 結局夢乃も三好も、お互いの金をちゃんと管理する、と上辺だけ取り繕った仲良しごっこをしているだけで、裏ではこうやってルール違反を平気でする。夢乃が聞いたらどう思うだろう。いや、夢乃もこいつと同じことをしている。もう俺は人間不信になりそうだ、せっかく助けてやってるのにこいつらはなんの改善もしようとしない。
 実はわかっていた、世界なんてこんなもんだ。表面では綺麗に完結したストーリーの裏では、絶対に表では語られることのない物語が存在する。

 「だ、だって、今日からイベントが……フェスが、スキル上げが……うわあああああっ」

 号泣して俺の横を走り去っていく三好をただ呆然と見ていた。
 俺は握り締めていたレシートを床に捨て、思いっきり踏み潰す。ばたばたと騒がしい足音が遠くなっていく。

 金って嫌だな、と誰に言うでもなくでもなく呟いた。ここまで酷いと、三好のゲームデータを消し、夢乃には二度とネオン街に近寄らないように、常に見張りをつけるくらいはしないと改善は無理だろう。それか、もう病院に行くべきだ。
 もうすぐ昼休みも終わる、授業なんか出たくないな。保険室に行くことも考えたが、サボリ常連の三好や夢乃に合う可能性を考えて辞める。三好の方のはるかもこれから飛び降りを決行するのだろうか。俺はまた夢乃を慰めなくてはいけないな、なんて最高に失礼で的外れなことを考えていた。


 「……あ、涼太郎さーん! あのっ、あのですねー!」

 舌っ足らずな声が俺の名前を呼び、振り返ると笑顔のエリカが走ってきていた。「ごめんなさい、遅くなりました。遠山さんとお話していたんです」と息を弾ませて言う。そういえば、話があるからとエリカに呼び出されたんだっけか。そんなことも忘れるくらい今は放心状態だった。

 「私、昨日で花屋さんのアルバイトやめたんですよ」

 俺から少しだけ目線をずらして、エリカは言った。嘘だろ、この前始めたばっかりじゃないか。俺もバイトの最長記録が2週間なので気持ちはわからなくもないが、さすがに辞めるには早すぎだろ、毎日頑張っていたのに。
 エリカはまっすぐ俺を見て言う。

 「そして、涼太郎さんと会うのも、これで最後にするって決めたんです」
 「……は? なんでそうなるんだよ!」

 思わず大きな声を出してしまい、びくんとエリカの体が跳ねる。「あっ、ごめんなさいっ、ごめんなさい。でも、決めたことなので」とエリカは気まずそうに笑った。エリカはこうやってすぐ謝ろうとするから、優しく接することを決めていたのに、また謝らせてしまった。しかしこんな時にそんな話をするエリカもタイミングが悪い。もっと心が落ち着いている時にして欲しかった。

 「あの、私、前に医者になりたいって言ったじゃないですかぁ。それをお母さんに相談したんですけど、お母さんも私の夢を応援してくれるって言ってくれたんです。でも今の成績じゃどうしても無理で。……これから、塾に通わせてもらうことになったので、放課後は会えないんです」

 青い薔薇をお渡しできなくてすみません、とエリカはまた謝った。やめてほしい。そんなの、必要ない。
 いつもより輝いている瞳を直視出来なかった。……夢乃とか三好とか、気にしている場合ではないんだったな。俺より後輩のエリカの方が、進路を先に決めてしまうとは。さすが俺の後輩だと思う。床に落ちたレシートが俺を笑う。

 「……おう。たまには連絡しろよ!」
 「はいっ。私、絶対絶対全力は尽くしますので! 涼太郎さんも、頑張ってくださいね!」

 ああ、もう昼休みも終わりですね、とエリカは言って、俺にお辞儀して自分の教室棟へ帰っていった。頑張れなんて、なんの根拠もない言葉が痛い。俺はまだ何も決めていないというのに、何を頑張れというのか。