コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 脇役にもなれない君たちへ ( No.32 )
- 日時: 2015/01/11 21:33
- 名前: みもり ◆EcL409OyWY (ID: DYDcOtQz)
エリカとはあっけなさすぎる別れだった。このまま二度と会うこともない、完全なお別れだ。これからひとりで地道に勉強して、エリカは医者になって、俺は適当になんかの職に就いて、一生出会うこともないのだろうか。そんなの、はるかと同じじゃないか。生きていても会えないなら、死んでいるのと同じではないか。
「おい、エリカ!」
「ひぇぇ、なんでしょうっ!?」
「……最後に、話をしよう。今日の放課後、マックな」
決めたのが昨日なら、まだ塾は始まっていないはずだ。
どんな話をするかなんて決めていないし、別に話なんかしなくてもいいと思う。でも、お別れくらいはちゃんとしたかった。
今度こそちゃんと自分の教室へ向かって、階段を降りていくエリカがとても遠くに見えた。
「……っ、じゃあなんで僕にあんな態度取ったんだよ! か、勘違いするだろ!」
「そこまで思わせぶりなことしてないわよ! 大体私三好くんの事なんかただの友達だと思ってたんだもんっ、本当は私20歳のイケメンな彼氏がいるのよ!」
なんでこうなったんだろうか、と思いながら前に座るエリカを見る。エリカは苦笑いして、「静かにしましょう?」と二人を止めようとするけど、三好と夢乃はファミレス中に聞こえてしまうのではないかと思うほどの大声でケンカしている。……いろいろ思うところはあるけど、どっちもご存命でよかった。また俺の周りで誰かが死なれても困る。
放課後俺とエリカは合流し、いつものゆるい流れでマックへ——とはいかなかった。俺の期末試験の点数が平均32点だった日より、場の空気は沈んでいた。その理由は間違いなく、こうして会うのはこれが最後だからだろう。結局バンドはできなかったな。うーん、でも、エリカと走り回ったここ2週間は、音楽で例えるなら確実にロックだな。そう思ってマックに行こうとする俺を、エリカが制止した。
「……ほら、最近異物混入とか、あるじゃないですかぁ?」
……ということで来たのがこのガストであるが、運の悪いことに隣の席で昨日俺に泣き付いてきた夢乃と、今日俺から泣いて逃げ去った三好が大絶賛言い争い中だった。一番会いたくなかったんだけどな、こいつら。
そういえば、始めてエリカとマックに行った時も、隣の席で高校生カップルがケンカしていたな。ほら、やっぱり恋なんてこうなるのがオチだ。
というか、もう三好は夢乃を、夢乃は三好を、見放してしまえばいいんだと思う。ゲーム課金も援助交際も、お互いには何も迷惑をかけていないんだから、もう全て忘れてただのクラスメイトという関係に戻ってしまえばいいのに。それができないのが、人間の恋とかいう特有の感情なのか。くっだらねえ。
「……わ、私三好くんなんか居なくても全然大丈夫だわ。課金も勝手にすれば良いんじゃないの。だって私20歳のイケメンな彼氏が居るから」
「で、でも遠山さん、昼間あんなに嬉しそうに三好くんのこと……」
「うるさいわね! あんたは黙っててよ、エセ保健委員!」
先輩に向かって失礼極まりない夢乃に、エリカは「ひ、ごめんなさい! 許してください!」と今日一番の謝罪をする。「あんたそうやって謝るけど、あんたなんかに謝られても私は全然嬉しくないし、その謝罪に価値があるとも思えないんだけど?」とでも続けそうな勢いの夢乃を止めると、三好が反論してきた。めんどくさいなあ。
「僕だって、夢乃さんのことなんかどうでもいいよっ。夢乃さんが毎日誰とも知らない男相手に何をしてたって、別に気にしないし……」
「でも三好くん、前に保健室で、あんなに遠山さんのこと……」
「西澤さんには話してないです!」
再び謝罪モードに入るエリカを見て、「お前も何も言わなきゃいいのに」と言う。でもエリカは本気で、二人を仲直りさせたいと思っているのだろう。俺からしたら三好と夢乃のケンカなんて、近所の野良猫と野良犬の争いよりもどうでもいいので、本当は今すぐにでもエリカと店を出てモスバーガーに行ってもいいのだが。
「200万もゲームにお金入れてるくせに。ラブホの入り方も知らないくせに。テストで0点取るくせに。そんなんで、私に指図しないでよ!」
「夢乃さんだって人の携帯勝手に見て魔法少女になりたいとか突然言い出すダメ人間じゃないか!」
「魔法少女は私の正義なの! 生きがいなの! バカにしないでよ!」
……ああ、楽しそうだなあ。200万? 魔法少女? 何の話だよ。
ふとエリカに視線をやると、鞄から問題集のようなものを取り出して、ぱらぱらと捲っていた。
外では部活にもクラブにも所属していない中学生達が、談笑しながら帰宅している。俺はガラスのコップをテーブルに置いた。
「ここでいくらケンカしたって、三好は課金をやめられないだろうし、夢乃は援助交際をやめられないと思うぞ」
だから、お互い認め合って、解決方法を少しずつ考えてくしかないんじゃねーの、と言おうとしてやめた。さすがにかっこよすぎるか、俺。
「涼太郎は黙ってろよ!」
「そうよ、あんたには話振ってないのよ!」
散々な言われようだな。お前らなんか俺が話を聞いてあげなければ、今頃死んでたかもしれないのに。とくに「み」が付く方。
エリカが少し顔を上げて、「ふふっ」と笑った。
「本当に、仲良しですよね、二人共」
どこをどうみたら、そんな解釈になるのかわからないな。まあ、二人共対立するところもあるけれど、本質的には似た者同士だと思う。これ以上間違いを起こさない方法といえば、ずっと二人でくっついてればいいのかもしれない。なんだかんだでバカップルだよな、と言ってエリカを見ると、満面の笑顔で頷かれた。
「……っはあ、もー、つかれたあ」
「ですよねですよね、お疲れ様です、遠山さん」
がたんと椅子にもたれかかる夢乃に、エリカが水を渡した。「ありがとうございます、西澤さん」と言って、夢乃はコップの中の水をほぼ一瞬で飲み干す。
メニューにばつの悪そうな目線を向けている三好は、今日の昼はなにか食べただろうか。俺が邪魔したから昼食どころではなかっただろうな。
「……俺のおごりでいいから、食いたいもの食って落ち着けよ」
俺とエリカの最後の部活動がこんな形で終わるとは納得がいかないな。でも、諦めてメニューを手に取ろうとする夢乃と、それを見てほぼ反射的にメニューを差し出す三好を見ていると、別に良いかなと思った。もともと、夢乃や三好は俺のバンドに加入する予定のメンバーだったんだ。やっと4人揃ったという事だ。なにより、エリカがとても楽しそうにしている。俺もエリカも1年なら、こうやって一緒にケンカしていたのかな。
「わあっ、涼太郎さんのおごりですか? それならですね、ええっと、私はハンバーグとポテトと……あっ、このハヤシライス美味しそう!」
冬の太陽は、今日も仕事を終え沈んでいく。目の前ではしゃぐエリカを見ながら、俺は財布を取り出したのだった。