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Re: 脇役にもなれない君たちへ ( No.33 )
日時: 2015/01/14 01:19
名前: みもり ◆EcL409OyWY (ID: DYDcOtQz)

 うまいもので機嫌を直すとは、単純な奴らだと思う。美味しそうにオムライスを頬張る夢乃が、「涼太郎くんがここまでしてくれたんだもん、免じて許すわ」と言っている。対する三好も無言でハンバーグを食べていた。

 「……ふふ、心配して損しましたね」

 英語の単語ノートを胸の前に持って、ふんわりと微笑むエリカが、二人に母親のような視線を向けている。俺からしてもこいつらは子供以下だ。さっき野良猫と野良犬に例えたが、それより下かもしれない。三好も夢乃も、人間として大切な何かが欠如している気がしてならないのだ。……心配だな。この2人は絶対くっつけない方がいい人間なのに、どうしてこうなったのか。

 「そういえば、ですね。 今日の8時に、流星群が見えるらしいんですよ!」

 ぱちんと手を叩いたエリカに、「わ、驚かせないでくださいよ西澤さん」と三好がフォークを運ぶ手を止める。流星群か。あの河川敷に、昔家族と見に行ったな。そんなことを思っていると、キラキラで夢のあるものが大好きな夢乃が、「見に行きたいなあ」なんて言い出した。

 「ええっとですねえ……ふたご座流星群、です。きっと綺麗なんでしょうね」

 スマートフォンから顔を上げて微笑むエリカが、画面を見せる。満天の星空に浮かぶ星がとても綺麗だった。
 これを見て終わりにするのが、最後の部活動には相応しいかな。明日からエリカは塾通いになると聞いた。三好も明日から追試があるらしい。時計の針は、午後5時ぴったりを指している。

 「見に行こうぜ、それ」
 「ほんと!? いいの? やったあっ」

 幼子のように喜ぶ夢乃が、オムライスを食べるのもやめてエリカと一緒に喜んでいる。……俺はエリカを誘ったのであって、お前は誘っていないんだけどな。「わあ、遠山さんっ、楽しみですね」と笑っているエリカが、ふいにこっちを向いて、ありがとうございます、と言った。

 「……え、僕は明日の追試の勉強……」
 「ごたごたうるさいんだっつーの、どうせ勉強もしないくせにっ。行くわよ」

 夢乃のその意見はごもっともだが、もう少しオブラートに包んでも良いのではないだろうか。第一印象ではしっかり「清楚」と頭の中に植え付けてしまうのに、こんな姿を誰かが見たら別人かと思うかもな。助けを求めるように俺に視線を泳がせてきた三好に、エリカが「三好くんも行きましょうよ!」と声をかける。すっかりお姉さん的な立ち位置になったエリカに、ここまで育てた甲斐があったなと一人で悦に浸っていると、俺が頼んだフライドポテトが運ばれてきた。

 どんないきさつがあったとしても、やっと4人揃ったのだ。もう人生で二度と集まらない面子かもしれない。俺はポテトを一つ取って、口に投げ入れた。

 「医者になる」だかなんだか言って、勝手に俺から離れようとする、随分明るい性格になったエリカ。あのテストの日と比べて、三好も顔色が良くなった気がする。夢乃だって、人前でこんなに感情を出すタイプじゃないから、なんだかんだ言って、ここに4人が集まったのは、いいことだったのだろう。無理矢理そう思い込むことにしよう。細かく考えるのは苦手だし、疲れる。

 「ねえ、流星群の時間までどうする?」

 ファンタを飲み干した夢乃が、俺たちに聞く。まあそれは、適当に時間を潰していればいいだろう。ゲームセンターに行って三好がユーフォーキャッチャーに大金を注ぐのを見て楽しむのも良いと思うし、カラオケなんかに行ってエリカの未知数である歌唱力を確認するのも良い。高校生の行動範囲なんてそれくらいだろう。あ、夢乃さんあなたは別として。

 「あ、それじゃあですね、私、みなさんと行きたいところがあるんです!」

 全員の視線が、エリカに向く。鞄から取り出したのは、クーポン券だろうか。

 「映画、見に行きたいんですっ!」

 そんな目で言われれば、断れないじゃないか。
 今流行りの恋愛映画のクーポン券が、机に並べられていく。詳しいあらすじは知らないが、確か四角関係の話だった気がする。