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Re: 脇役にもなれない君たちへ ( No.34 )
日時: 2015/01/14 19:29
名前: みもり ◆EcL409OyWY (ID: DYDcOtQz)
参照: 主人公は夢乃だったりします。嘘です。

 面白くない映画だな、と思った。
 画面に釘付けになっている西澤さん、今にも寝てしまいそうな涼太郎くん、どうでもよさそうにスクリーンを見ている三好くんを順番に見ながら、私はスマートフォンの電源を付けた。



  episodeX 「 脇役ではいられない俺たちへ 」



 「……映画泥棒」

 隣で三好くんが呟く。
 カメラのアプリを起動しているわけでもないのに、言いがかりはやめてほしいな。……なんて言っても、私は既に彼には失望された身だった。そして、私も彼に失望している。涼太郎くんが言ったとおりだった、私は馬鹿だが三好くんも同じくらいの馬鹿。そして馬鹿同士のケンカに巻き込んでしまった涼太郎くんや西澤さんには申し訳ない気持ちでいっぱいです。

 映画は終盤にさしかかり、主人公である美森アキナという少女が、彼氏と和解するべく、なにやら綺麗事を吐きながら走っていた。
 この映画はこうして、綺麗に終わっていくんだろう。主人公たちは幸せになれたけれども、それ以外の人々はどうなったのだろうか。結局は自分たちだけが幸せならそれでいいのだろうな。これだから私はこういうお涙頂戴ストーリーが嫌いだ。

 我ながらひねくれた人間だな。バットエンドだと文句を言うくせに。

 「ねえ、三好くん。私があげた一万円は、もうゲームに消えたのかな」
 「映画観なよ」
 「あ、図星」

 私はスマートフォンの電源を再び落として、鞄の中から「お小遣い帳」を取り出した。この頃の私は、なんでもキラキラして見えていたな。つい2日前のことだけど、ずっと昔に思える。今ふたつ隣の席で、ハンカチを目尻に当てて画面に熱心な視線を注ぐ西澤さんと同じ瞳をしていたと思う。羨ましくて仕方なかった。
 映画の中の主人公が、わざとらしく涙を流して何かを叫んでいる。

 「夢乃さん、僕さぁ」
 「……なに?」
 「ゲーム、さっき消そうとしたんだよ」
 「はぁ!?」

 あまりの衝撃発言に、映画館ということも忘れて大声で聞き返してしまう。幸い劇場内はガラガラの空き空きで、私たち以外には目立った客はいないのだが、西澤さんがばっとこっちを見る。ああ、邪魔してごめんなさい。
 三好くんといえばゲームだし、昼ご飯も食べないでゲームしているくらいだし、携帯を取られたときは泣いてたし(あの時はなぜか私が悪いみたいなことになっていてちょっと引っかかるものがあった)、私との約束を破ってまでゲームにお金を注ぎ込むような人だったのに、なんで。開いた口が塞がらない私に、三好くんは追い打ちをかける。

 「……正確には、アカウントをオークションに出して、少しでもお金になればって」
 「う、嘘でしょ? 飽きたの? どうしたの?」
 「だって最初は夢乃さんが……」
 「ええっ!? あたし? なんであたしが出てくんの!?」
 「静かにしろよ、夢乃」

 涼太郎くんが私を注意してきたので、私は少しだけ声のトーンを抑えた。しかし驚きは収まる気配はなく、私は頭の上にまたもやはてなマークを量産するのであった。

 「だって、僕はこのゲームのせいで今こんな事になってるんだし」

 映画館の暗さのせいで、三好くんの表情は見えないけれど、きっと夢から覚めたような顔をしているんだと思う。
 私は、三好くんがゲームをやめるのをやめてほしい。三好くんがゲームをやめて、現実に目を向けてしまったら、私は誰に「魔法少女になりたい」と吐き出せばいいのか。ほとんど無理矢理に映画館に連れてこられた三好くんなりの悪質な冗談なのかもしれないが、冗談にしては重い空気な気がするのは、映画がクライマックスに差し掛かっているからではない。西澤さんは医者になりたいらしいし、涼太郎くんも進路を決める時期だし、どうしてみんな私から離れていくんだろう。

 エンドロールが流れ出す。西澤さんが、「あ、この乃木まといさんっていう女優さん、最近好きなんです」と笑っている。
 最後の最後に映し出されたのはほかの映画の宣伝だった。中学生の女の子が魔法少女になって、世界を変えるというストーリーらしい。ぼんやりとそれを眺めていると、三好くんが私を嘲笑するように「夢乃さん、こーいうの見に行くんでしょ」と言ってきた。

 「……行かないよ。私だって、現実見るよ」

 咄嗟に出た嘘は、映画館の喧騒にかき消された。