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Re: 脇役にもなれない君たちへ ( No.35 )
日時: 2015/01/17 19:31
名前: みもり ◆EcL409OyWY (ID: DYDcOtQz)

 映画館から出て、少し前で何かケンカみたいなことをしている涼太郎くんと、三好くんの後ろを西澤さんと歩く。冬なだけあって日はとっくに沈み、次は三好くんの提案によって図書館に行くことになった。私は普段本なんて読まない人だから、その誘いにはまったく乗り気じゃなかったけれど、あのネオン街に入れば自分はまた何をするかわからないから仕方なく従うことにした。
 携帯以外に何で見るんだよ、と三好くんの声が聞こえる。そりゃあなあお前、パソコンだろと涼太郎くんが馬鹿にするように言い返す。ケンカは雰囲気が悪くなるからやめてほしいなあ。それに私はまだ風邪気味だし、もう帰りたいなと思う。それを察したのか西澤さんが、「ドラッグストアに寄りましょうか?」と心配そうに聞いてきた。

 「あ、いやあ。大丈夫です」
 「それなら、良いんですけど……最近、ウイルス性胃腸炎が流行ってるらしくて、心配です」
 「そんな変な病気があるんですね」

 病気や薬の知識がある西澤さんは、きっとどっかの大学の医学部に入ってしまうと思う。私はお父さんから法学部を受験するように言われているが、法律よりはメイクとか、ファッションとかの方が好きなんだけどな。それをお母さんに話したらお母さんは笑って、「将来離婚する時に、法律が分かってたら確実に勝てるわ、慰謝料いっぱいもらえるわよ」と言った。私は親にすら将来離婚しそうだと思われているのだろうか。私の両親は離婚もしていないし、娘の私から見る限り夫婦円満だと思うのだけれど。
 私はテストの成績も上の中ぐらいではあると思っているし、学年ではトップ10から漏れたことがない。援助交際がバレない限り、指定校推薦も貰える。自分の将来の可能性を自分で潰していることを知って笑いそうになる。あと2年もあればバレるかもなあ。西澤さんはこのままうまくいくんだろうな。涼太郎くんは就職するのかな。

 映画館から図書館までは、歩いて15分くらいの距離にある。冬風に吹かれて、寒い寒い言いながら歩く冬道は少し凍っているような気がする。前に雪が降ったとき盛大に転んでいた小学生の子を思い出した。大丈夫かなあ。三好くんとか転んだりしないかなあ。

 「遠山さんは将来のこととか、決めてるんですか?」
 「うーん、私はあんまり」
 「ですよね、まだ1年生だし、早いですよね」

 西澤さんはそう言うけれど、有名な頭のいい大学に行くなら1年生の頃から勉強しなければいけないし、来年授業選択を間違えると受験すらもできない大学が出てくるし、早く決めてしまわないといけないのは分かっている。さっきの三好くんの「ゲームを消す」発言でも思ったけれども、そろそろ私も夜の街だとか、魔法少女だとか、決別しなきゃいけないのはわかってる。わかってるはずなんだよ。どうも2年生とか3年生の先輩と一緒にいると、その辺を意識させられる。

 ……でも、今の私はこのままで、変われないんだと思う。それは三好くんも一緒で、私はたぶん、「三好くんも似たようなことをしているから」と思い込んで、勝手に安心していたんだろう。三好くんがいくらゲームに課金しようと進学に影響することはないが、私の場合していることは犯罪だから、実際のところ私は彼より何倍もやばいのだが。
 あーあ、悔しいなあ。三好くん以下ってどんだけ酷いんだよ。そう思うけど、「絶対に私はこのままで変われない」とも思ってしまって、どこへも行けない。すべてはあの時夢見た魔法少女が悪いんだ、と思っていたところで、思いっきり滑って転びそうになった。

 西澤さんが腕を掴んでくれなかったら、私は盛大に地面に転んでいただろう。
 驚いて振り返る三好くんたちに、「あ、あははっ」と苦笑いして、私は憎き地面に舌打ちした。