コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 脇役にもなれない君たちへ ( No.38 )
- 日時: 2015/01/23 01:02
- 名前: みもり ◆EcL409OyWY (ID: DYDcOtQz)
図書館から出ると、外はもう暗くなっていた。肌寒い冬の風が吹いてくる。私はみんなが冷えないようにと、持ち歩いているカイロを渡そうとして遠山さんに止められた。「西澤さんは、お人好しなところがあると思います。もっと自分のために生きてもいいのに」と少し不機嫌そうに言われる。遠山さんはこんな事を言うが、私は少し前に比べて言いたいことは言えるようになったと思う。だって、こんな私なんかに構ってくれるみんなが居るから。クラスの友達ではないけれど、涼太郎さんも三好くんも遠山さんも、一緒にいて苦ではないし、とても良い友人だと思っている。とくにここ2週間を一緒に過ごした涼太郎さんは私を変えてくれたとっても素敵な人だ。私はこれから毎日のように塾通いになってしまうので、こうしてみんなと会うのもこれが最後。あと1時間程度の付き合いだけれど、このまま終わってしまうのが惜しいくらいだ。
「今から河川敷に向かえばちょうどいい時間になると思うぜ。えーっと、ふたご座流星群だったよな」
スマートフォンでなにかを検索しはじめた涼太郎さんを、背伸びして遠山さんが覗き込んでいる。「あ、涼太郎くん。今日は13日じゃなくて14日だよ」と笑う。私もその話に混ざろうとして、三好くんが居ないことに気がついた。
急いで駆け寄っていくと、「どうしたんだよ、エリカ」と心配そうな顔の涼太郎さんに言われた。
「と、遠山さん、涼太郎さんっ。三好くんはどこですか」
「……え、拉致られたんじゃないですか?」
どこの過激派ですか、と言いたくなるのを抑える。遠山さんのこの言葉はウケを狙ったのかどうか真相は分からないけれど、怖いことを言わないで欲しい。「身代金要求されたら夢乃が払えよ、お前金持ちなんだから」と涼太郎さんまで乗ってくる。
「どうせまたあいつのことだから、俺たちに黙ってコンビニにでも行ってるんだろ。帰ったかもしれないしさ、先に行ってようぜ」
スナック菓子に異物とか入れてたりして、と遠山さんが呟く。
遠山さんや涼太郎さんは、人を落として笑いを取るタイプの人なのだろうか。それなら、ちょっと迷惑だと思う。私のクラスにもそんな人がいる。他人を貶すことでしか、笑いを取れないような人。少しだけ失望してしまった。
「あの、私もう一回図書館見てきましょうか」
「……三好くんなら図書館の人に厳重注意を受けてる最中ですよ」
遠山さんが顔を上げて微笑んだ。……最初から、そう言ってほしい。ため息を吐いて、一気にやってきた疲労感に困憊しそうになる。遠山さんは私のような人間を躍らせるのがうまい。
三好くんが厳重注意されるような理由には、いくつも心当たりがある。まずは借りた本を3ヶ月も延滞していたこと、次に遠山さんと一緒に本を棚から落として散らかしたこと、そして遠山さんと一緒にさっき見てきた感動映画顔負けのセリフを、図書館ではありえないくらいの大声で飛ばしあっていたこと。何を話していたのかはよく聞き取れなかったけれど、ファミレスのケンカ以上にヒートアップしてて、止めに入ろうとして涼太郎さんに「やめとけよ、お前まで一緒だと思われるぞ」と言われて踏みとどまったんだっけ。
……それなら遠山さんも厳重注意を受けるはずなのに。
「あ、私ですか? 逃げてきちゃいました」
えへへ、と遠山さんは笑う。
「夢乃ってさ、計算高いってか、悪い意味で頭良いよな」
涼太郎さんの言葉に何から何まで同意だ。私も遠山さんのように生きられたら、人生少し楽だったのかな。今の自分に不満があるわけではないけれど、歳下なのにしたたかな遠山さんは、私とは絶対的に違う人なんだなあ、と思わされる。
そこのベンチに座って暇潰そうぜ、ということで私たちは一旦図書館から離れることになった。ご愁傷様です、三好くん。私は明かりが灯る図書館を見上げて、心の中で苦笑いをした。
時刻は午後7時。スマートフォンの光がまぶしくて、明るさを最大まで下げる。ベンチに座って話をしようにも、私たちは全員学年が違うのでどうにも話が弾まない。例えば遠山さんが、「伊藤先生が昨日出した数学の問題が〜」なんて言う。しかし私と涼太郎さんは、まず伊藤先生がどんな先生かを思い出すところから始めなくてはいけなかった。沈黙が体感で5分は続いただろうか。三好くんはいつまで怒られているのだろう。親なんか呼ばれていたら流星群どころではないな。
やっと見つけた共通の話題は、もうすぐ学校で開催される校内体育大会だった。私はテニスに出ようと思っているが、遠山さんは女子バレーに出たいらしい。涼太郎さんはきっと、どの種目からも引っ張りだこなんだろうな。遠山さんも運動神経は悪くなさそうに見える。立ち振る舞いとか、雰囲気とかそんなので大体はわかってしまうのだ。
もうすぐ流星群が見える河川敷に向かわなくては、間に合わないかもしれない。
そう思った時、涼太郎さんのもっていた携帯から、「どらーげない」なんて単語を連呼する歌が流れ出した。うわあ、と明らかに引いている遠山さんを一瞥し、涼太郎さんは電話に出る。その相手は私たちもよく知っている相手だった。
「もしもし? 今お前どこに居るんだよ」
三好くんだ、と私は遠山さんと顔を見合わせる。ふふ、と笑顔がこぼれた。受話器の向こうの三好くんは、なんだか私たちを探しているようだけれど、このベンチは図書館のすぐ前にあるんだけどなあ。やっぱりちょっとあの人は天然だ。
『……そうじゃなくて、なんか今、西澤さんのストーカーみたいな人に絡まれてるんだけど。図書館の裏で』
なんだよそれ、と涼太郎さんが言う。遠山さんも驚いている。そして私も驚く。
私のストーカー、と言ったよな。私はクラスでも目立つ方ではないし、今まで誰かに後をつけられていたりとかそんな経験はない。不安が襲ってくる。三好くんが、怪我とかしていないだろうか。そう思ったときには私は立ち上がって、「様子を見てきます」とふたりに言っていた。