コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 脇役にもなれない君たちへ ( No.4 )
- 日時: 2014/12/19 01:14
- 名前: みもり ◆EcL409OyWY (ID: DYDcOtQz)
午後の授業を受けながら、私は昼休みの出来事を眠い頭でふわふわと回想していた。
後輩相手とはいえ、あそこまで対等に話したのは久しぶりかもしれない。クラスの子にも、兄や姉相手でさえも謙遜してしまう私が、遠山さんや三好くんと普通に喋れたことは奇跡に近いだろう。弱気で物事をはっきり言えない性格のせいでクラスの子にはパシリに使われているし、きっとみんなは私のことを良いように扱える道具としてしか見ていない。だからこそ、私に青い薔薇について語ってくれたり三好くんの話をしてくれた遠山さんや、「先輩だから」と私をパシらせなかった三好くんと話したことは貴重だった。
もう二度と話すことは無いだろうが、今日の昼休みは高校生活でも指折りの出来事だったなあ。
物理の授業が、頭の上を流れていく。私はついに眠気に負けて机に伏せる。おやすみなさい、現世よ。
「だ、だから青い薔薇はないって言ってるじゃないですかぁ!」
「ははぁん、そう言われると思ってさ、俺調べたんだよ。青い薔薇は確かに近年までは存在しなかった。しかぁし! 最近は技術が発達し、ななんと! 2008年には青薔薇は一般流通してんだよ! さぁ出しな、お嬢ちゃん!」
「ひいいい、ないですって! ないです! 青い薔薇は、ありませぇん!」
アルバイト3日目、午後6時。私はもうアルバイトを辞めようと思った。
目の前にいるのは私の学校の制服を着た男子生徒。私より15センチくらい身長が高くて、一見するとサッカー部かバスケ部っぽい、いかにも「人生謳歌してます!」な雰囲気な彼は店に入るなりずかずかと私の方へやってきた。
「……ちぇっ。次のライブで使おうと思ったのに」
「そ、そんな簡単に、手に入るものではありません、ごめんなさい……」
なんで私が、なんで私が。と思いながら私は平謝りをする。店員という立場ではなくても私はこうしていただろう。もうこの自分の性格には嫌気がさしてくる。
そんな私を、長身の彼はまじまじと見つめ始めた。……えっ、なんですか。
「店員さん、俺見たことあるんだけど、もしかして青烏高校?」
「…………そ、そうですけど……」
「やっぱりぃ! 俺、3年の笹村涼太郎。ののむらりゅうたろうじゃないよ、笹村涼太郎! 知ってる?」
右耳に手を当てて、何かのモノマネをしてみせた笹村さんは、静かな花屋には場違いな大声で私に聞いてくる。正直なところ笹村涼太郎だなんて一度も聞いたことがない。どうしよう殴られる、でも嘘はつけない。私は震える声で答えた。
「すすす、すみません、存じておりません……ごめんなさいっ、今覚えました! ちゃーんと、インプットしましたので!」
「っはー、やっぱりまだ知名度は低いかぁ。俺さ、バンドやってんだけど、ぜーんぜんダメなんだよね」
笹村さんはアニメか漫画のキャラクターのように、腕を組んで頷いている。「まあ、メンバーが俺一人っていうこの現状を何とかすれば、絶対レコード大賞は取れるんだよなぁ」と言うが、それはちょっと、流石の私でも否定したい。
「お、お一人でおバンドですか……? な、なんだか、素敵ですね!」
「店員さんもそう思う? あ、てかさぁ店員さん、俺のバンドに入らない?『おもちファイターズ』っていうんだけど」
えっ、どうして。この人と話していると思考がショートしそうだ。これは新種のナンパか何かか? でも私なんかナンパしてもなにも楽しくないだろうし、笹村さんは本気で言っているのかも。でも私は音楽経験なんて何一つないし、でも笹村さんの頼みを断るわけにはいかないし、でも、でも……!
「ちなみにおもちっていうのは餅じゃなくて、『主に力尽きてる』の略称なんだよね。いやいや、俺のセンスはかなりヤバイな」
「……や、やりまぁす! やらせてください!」
どうすればいいのかわからない、ぐちゃぐちゃな思考回路の中で、私はなぜかそんな言葉を吐き出していた。笹村さんも、「え、いいの?」とびっくりしている。あ、いや、違いますって。否定したかったけど、なんの言葉も出てこなかった。
「……確かに店員さん、さっきの謝り方からしてヘドバン上手そうだもんね! よし、お前を新メンバーにしてやるよ! 名を名乗れ!」
「に、西澤エリカですぅぅぅ! ごめんなさい!」
「え、エリカ? その顔で?」
「顔はもういいじゃないですか、許してください!」
すっかり乗り気な笹村さんは、私と目を合わせて無邪気に笑う。その笑顔を見ていると、断ることもできなくて。どうしよう大変なことになってしまった。
そんじゃあ、バイト終わったらマック行こうぜ、マック! と言う笹村さんを見て、私はただあわあわすることしかできなかった。もうこのまま一生花屋のアルバイトがあってもいい、そう思うくらいだった。