コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 脇役にもなれない君たちへ ( No.40 )
- 日時: 2015/01/25 03:44
- 名前: みもり ◆EcL409OyWY (ID: DYDcOtQz)
星がきらきら光っている。昔友達と寝転がった河川敷が近づくにつれて心拍数が上がっていく。
こんな時に自転車があれば良いのにな。俺は友達と3人乗りまでならしたことがある。エリカも夢乃も三好も軽そうだからいけるか、4人乗り。肝心の自転車が落ちていないこの道は、夜が終わる向こうまで続いているようだった。
左手には空き地、右手には河川敷が広がる道をずっと歩いていけば、俺や夢乃の家の方面に出る。この時間になると人もいないし、自転車ともすれ違わないし、車もそれほど走ってない。4人で並んで歩いていても、誰の邪魔にもならないのが、とても心地いいというか、世界すべてが俺たちのものになってしまったかのような感覚になる。
エリカと夢乃はいつの間に仲良くなったのか、ラインを交換して楽しそうに話している。クラスでもちょっと浮いた者同士、仲良くしてくれればいいと思う。暇になったので、談笑する二人に羨ましそうな目線を向けていた三好の肩を叩くと、必要以上に驚かれた。
きっと世間はこれを青春と呼ぶのだろう。明日の授業中にふと今日の出来事を思い出して、ぷはっと吹き出して、前の席のやつが不審そうに見てくるような、そんななんでもないこの時間は好きだ。エリカと会うのも、夢乃や三好と遊ぶのも、これが最後だからこんな感傷に浸れるのだろうか。まだ遊んでいたいのに、現実は容赦なく選択を迫って来るから嫌いだ。
「見て、星が綺麗だよ」
夢乃が夜空の下をくるくる回っている。こんな表情ができる人なのかと思った。
汚れ切った夜の街で、酷い世界ばかり見てきたせいでいつも濁った色をしていた瞳が、少しだけ輝いているのが見える。「今日は5万円」だとか、「昨日は過激だったんだよ」なんて語っていた夢乃が今、流行りの服の話をする年頃の女の子のようにはしゃいでいる。
その少し離れたところで、俺は口を開いた。
「そんでさ、三好。どうなったんだよ、夢乃のこと」
「……もうわかんないよ。きっと、振られたんだよ」
「だよな。そうだよな。お疲れ」
あの夢乃のことだから、うまくはぐらかしたんだろう。明確な答えなんか出さないだろうな、あいつなら。ただ、図書館で告白っていうのはちょっとだけかっこよかったかもしれない。案の定空気の読めないエリカが止めに入ろうとしたが、あのシチュエーションは、女子ならさっき見た映画の何倍も憧れるだろうな。ただ相手が、ゲームに20万も入れるアホじゃなければもっと良かっただろう。
主に慰めの意味で俺よりずっと低い位置にある頭をぽん、と叩く。鼻をすする音が聞こえて、大丈夫かと二度見する。俺も彼女が自殺したときは一生分くらい泣いたから、気持ちはわかる。前でエリカと楽しそうにくるくるしている夢乃はまったく人騒がせというか、罪な女というか。
「来年は、夢乃さんとクラス離れればいいのにな」
強がりでも何でもない、紛れも無い本心であるその言葉が胸に痛かった。
こっちを振り返って、写真撮りましょうよ、とはしゃぐエリカに返事を返す。
よく星が見える場所に付いて、俺たちは腰を下ろした。もちろんベンチなんて近代的なものは置いておらず、ただ川の流れる音だけが響いている。満天の星空を見上げて、わあ、きれいだね、なんて夢乃はまだ浮かれている。
「みなさんは、流れ星にお願いできるとしたら何を願いますか?」
私はですねー、やっぱり医学部合格です、とエリカは夜空を見上げた。その横に居た夢乃は、「宝くじ当たんないかなあ」と呟く。お願いごとを考えたのはいつぶりだろうか、思えばけっこう俺は夢ばかり見ているようで現実主義だったみたいだ。さっきの彼のこともあったし、やっぱりロックスターだよなあ、と思って、少し考えてそれを訂正する。
「今は就職だよな、やっぱり」
「……だよね、3年生だもんね」
高校生活も、残り3ヶ月ないんだ、今だってこうしている場合ではない。この夜がいつまでも続いていればいいのに。明日も朝の電車で三好に遭遇して、エリカと笑って、放課後夢乃が泣きついてくるような、そんな日常がずっと続いていればいいのに。いつか俺たちも大人になって、今抱いている夢や希望を全部潰して、死んだような目をしながら生きるのだろう。そんなの嫌だ。いつだって俺たちは、こうして青春していたいんだ。進路なんか、現実なんか、就職なんか消えてしまえばいいのに。ずっと高校生で、何をしても笑って許される学生でいれたらいいのに。なんで大人になんかならなきゃいけないんだ。
「あ、流れ星」
黙って夜空を見ていた三好が唐突にそう言った。慌てて俺たちも目線を上にずらすも、流れ星は既に消えていた。「三好くんって、運がいいんだね」と夢乃が笑う。夜のせいで誰の表情もよく見えないのが、今は好都合だった。
エリカは前に進むことを選んだが、俺も三好も夢乃も、今抱えている問題の解決を先延ばしにすることを選んだ。俺は近々絶対に決めなきゃいけない大事な選択をするのだろう。三好や夢乃はこのままずるずると悪事を続けるのだろうか。俺からすればどっちも馬鹿なのだが、こいつらの高校生活はあと2年ある。2年でまたいろいろ変わっているのだろうな。全てはさっきの、あの新人ロックンローラーにかかっているのだ。責任転嫁? いやいや、とんでもない。
どこまでも広がる夜空の下で、エリカが笑顔で何かを呟いた。俺の聴力が正常なら、「私、ずっとみんなが大好きです」と言っていた。
どこまでも広がる夜空を見上げるだけの青春。主役になれない俺たちにはこれがぴったりだろう。結局何も変えられなかったのだから、脇役を名乗るのすらおこがましい。しかしこの世界は、俺たちに優しいようで、またひとつ流れ星が夜空を翔けていった。
願い事は、冬の夜空の中に消えていった。